横浜美術館「石田尚志 渦まく光」展

[text and photo by 中野 昭子] 2015/4/6 UP

 美術館に関し、限られた空間に厳選された作品を置くことで会場に集中力が生まれることもあるし、広い空間にたくさんの作品を配置することでテーマがより深く見えることもある。いずれにせよ、鑑賞する側としては、作品と美術館の刺激的なぶつかり合いや、幸せな出会いが起きている場に立ち会いたいと願いつつ、会場へ足を運ぶ。

 今、横浜美術館で開催中の 「石田尚志 渦まく光」展の会場は、石田氏の作品が美術館の広い空間によって生かされ、また作品の放つ光によって美術館に清冽な空気が満ち、有機的な相互作用ともいえる場になっていた。

●公式HP: http://yokohama.art.museum/special/2014/ishidatakashi/
●会場:   横浜美術館
●会期:     2015年3月28日(土)~5月31日(日)
●時間:     10時~18時(入館は17時30分まで)

 

第一章 絵巻

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《海抜の絵巻》2007、展示風景、東京都現代美術館蔵

 映像作品と、その制作過程の絵が絵巻物の形で並置されている。

 スクリーンの中では、矩形や曲線がコマ撮りによって増殖し、消滅し、再び姿を現す。映像を見てから絵巻物を見ると、紙上で静止している線や余白は、今にも動き出すようにも、動いた後の軌跡のようにも見えた。

 絵巻物は、映像のリソースを、一枚ものの絵ではなく絵を連結させてかたちを持続させることで、時間的な制約の幅を延長させていく。そして絵巻物の中のかたちは映像作品として結実し、時間を無制限にし、作品に永続性を付与しているのである。この章で見られる反復・連続性といった要素は、すべての作品に通底するテーマと言えるだろう。

 

第二章 音楽

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《フーガの技法》2001(原画、創作ノート)、展示風景

  1万枚に上る動画素材から作成された石田氏の映像作品「フーガの技法」は、J.S.バッハの「フーガの技法」の18曲のうち3曲を取り上げ、映像化したもの。

 音楽を聞く時、鑑賞者は、今聞いている単独の一音だけではなく、一瞬前に流れた音と、未来に予測される音を意識する。音楽の持つ時間軸と鑑賞態度は、石田氏の作品のスタイルや問題意識に重なるものがある。

 とはいえ石田氏の作品の中で、J.S.バッハの堅牢な建築物のような旋律と共に現れるのは、長方形や有機的に動く曲線たちである。音とかたちの取り合わせは意外性がありながら、絶妙なマッチングを果たしており、不可思議ともいいうるような想像力を感じさせる。

 ここで展示されている「フーガの技法」の制作過程のラフ画を見ると、気が遠くなるような緻密な作業の軌跡を伺い知ることができる。石田氏の作品は、完成体の中だけではなく作成工程にも、繰り返しが積み重なっているのである。

第三章 身体

《渦巻く光》2015、展示風景

《渦巻く光》2015、展示風景

 石田氏は2010年から、描かれる絵だけではなく、描く身体を画像とし、そのまま映像作品にするというスタイルを取り始めたという。10代よりライブ・ペインティングをし、20代では横浜美術館でパフォーマンスを行ったという石田氏にとって、恐らく身体は作品と地続きであり、また作品そのものでもあるのだろう。

《海中道路(行き、帰り)》2011、展示風景

《海中道路(行き、帰り)》2011、展示風景

 同じ部屋や路面でペインティングが繰り返される作品は、同一の場所で起きる出来事の相違点と共通点が浮き彫りにする。その制作過程や空間への意識は、第四章「部屋」で登場する作品に結びついていく。

第四章 部屋と窓

《燃える机》2015、展示風景

《燃える机》2015、展示風景

 これまでに何度も登場した矩形や曲線が、部屋の壁や床を覆いつくしていく。その様は抽象的な図形が日常に浸食していくようでもあり、また三次元空間における時間の移り行きが視覚化されているようでもある。

 部屋の窓は石田氏の作品に頻出するモチーフ、矩形の役割を果たし、そこから差し込む光は、部屋の中の出来事を照らし出す。窓は部屋と外界との接点であるため、作品中の窓は、スクリーンの中と現実世界の重層的な境界を示すようにも思え、また窓を見つめていると、鑑賞者である自分の立ち位置が曖昧になっていくような感覚を覚えた。

《燃える椅子》2015、展示風景

《燃える椅子》2015、展示風景

 作品「燃える椅子」は、コンクリートの部屋の壁に椅子が燃えさかる映像が投影される作品だが、水底にあるような青い空気に包まれた部屋の中で、線が火のゆらめきのような形を取り、炎に包まれる椅子が映像になる過程は、映像の中で温度や空気の重さを感じさせ、鑑賞者の皮膚感覚に訴えかけてくるようだった。

 


石田尚志氏、記者会見にて

石田尚志氏、記者会見にて

 映像作品の展示は、ブースごとに区切るスタイルが一般的だ。しかし今回はテーマごとに広い場所を取り、そこに複数作品を並べるという形態を取っている。石田氏の映像に頻出する矩形や曲線を見つめていると、別のスクリーンでそれらが蠢いている様が視界に入ってくる。

 石田氏の作品は一見、抽象的で無機質であるが、黒く塗りつぶされた色でさえも生命力を感じさせ、ダイナミックである。そしてスクリーンに溢れる光は澄みわたり、どこか神々しさすら感じさせる。会場全体に感じられるのは反復や繰り返しや永続性であるが、それらは石田氏の、静かだが尽きせぬ想像力によって生成され続けていくのだろう。 

 

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