- 2014-11-7
- 展覧会レポート
- ハイレッド・センター, 千葉市美術館, 赤瀬川原平
[text and photo by 三本松 通] 2014/11/7 UP
10月26日に77歳で亡くなった赤瀬川原平の作品を集めた「赤瀬川原平の芸術原論 1960年代から現在まで」が10月28日、千葉市中央区の千葉市美術館で始まりました。
前衛美術家、漫画家・イラストレーター、小説家・エッセイスト、写真家など多くの顔を持つ彼の,図らずも追悼展となってしまった本展ですが,赤瀬川原平の芸術活動全般を網羅する回顧展としては,1995年名古屋市美術館での「赤瀬川原平の冒険?脳内リゾート開発大作戦」以来19年ぶりとなります。
公式HP: http://www.ccma-net.jp/exhibition_end/2014/1028/1028.html
会 場: 千葉市美術館
会 期: 2014年10月28日(火)~ 12月23日(火・祝)
時 間: 日~木曜日 10:00~18:00 金・土曜日 10:00~20:00 ※入場受付は閉館の30分前まで
会場の展示は活動時期ごとに,本名の赤瀬川克彦で活動していた学生時代の作品から,ネオ・ダダ時代,1958年から1963年まで出品した読売アンデパンダン展へ。ゴム素材の質感や作品のサイズ,真空管のぎらつきなど50年の時を超えて放つものがあります。
赤瀬川は1963年に中西夏之・高松次郎と「ハイレッド・センター」活動を始め,「反芸術」を代表する作家となります。
このあと,ハイレッド・センターの関心は模型千円札や梱包作品のようなオブジェから,イベントやパフォーマンスへと移っていきます。
個展案内状の片面に千円札の表面のみを一色で印刷して送付していたことをきっかけに,当時世間を騒がせていた偽札事件(チ-37号事件)とも関連して,赤瀬川原平は1964年に書類送検されます。偽札としての使用はまず無理な印刷物の制作だったものの,翌65年11月に印刷業者2名とともに「通貨及証券模造取締法」(通貨及び証券に紛らわしきものの製造、販売の禁止)違反の嫌疑によって起訴され,67年6月東京地裁第一審で有罪判決。68年11月東京高裁で控訴棄却。さらに最高裁で70年4月に上告棄却され有罪が確定します。
この裁判では多くの美術家、思想家、評論家が公判に参加し,「芸術であるから無罪」とする弁護側の主張に沿い,「芸術とは何か」についての説明が展開され,法廷に多数の前衛作品が運び込まれる,異様な裁判となりました。 本展では等身大の写真を印刷した「男子総カタログ’63」」など多くの裁判資料も展示されています。
ハイレッド・センターや赤瀬川原平の名はこの事件を通して広く世に知られることとなります。膨大な押収資料とその保存を見るに,「司直に立ち向かう,芸術側の旗手」に祭り上げられる状況を,被告人である赤瀬川自身が傍観し,裁判自体を一つの事象,作品として楽しんでいたのではないかとも思えます。
この裁判中の1968年付近から,関心が向くというよりは,「生活のため」に赤瀬川は出版物でのパロディや社会風刺のイラスト・漫画へと作品をシフトさせていきます。
掲載誌・朝日ジャーナルを2週休刊させ,編集長更迭と大規模な人事異動を生んだ「櫻画報<アカイ アカイ アサヒ>」など,製版,印刷というフィルタを通してもまだ滲み出る強烈な社会への意識を感じます。また,親交のあったつげ義春の作品のパロディ化には,高い精度でその筆致をコピーしています。赤瀬川原平の観察力と器用さがわかります。
美学校で教壇に立った赤瀬川は,生徒たちへの課題,共同作業から「考現学」へ活動を傾倒させていきます。
世の中の建物にある「無用の長物」を「東京読売巨人軍に鳴り物入りで入団したものの三振ばかりで何のために存在するのかわからないトマソン選手」になぞらえた,「超芸術トマソン」という名前を付けることによって芸術活動へと転化。「写真時代」での連載などメディアを通して世に広めていきます。「トマソン」で赤瀬川原平の名を知った方も多いのではないでしょうか?
この活動は「路上観察学会」へとつながり,また路上観察は「ライカ同盟」などの活動でもテーマとなります。
美学校で教壇に立った赤瀬川は,生徒たちへの課題,共同作業から「考現学」へ活動を傾倒させていきます。
相前後して,それまでの赤瀬川の文章にセンスを感じていた編集者からエッセイや小説執筆の依頼がありました。親戚の苗字と本名の克彦を合わせたペンネーム「尾辻克彦」名で発表した「父が消えた」(1980)は芥川賞を受賞します。
また,記憶力や視力,気力,体力の減退,病気や障害を持つ等の加齢に伴うネガティブな要素を,「老人力がつく」と言い換えることにより新たな視点を与えた「老人力」(1998)もベストセラーとなりました。
千葉市美術館で開催されている「赤瀬川原平の芸術原論」は2014年12月23日(火・祝)まで。このあと,大分市美術館(2015年1月7日~2月22日)、広島市現代美術館(2015年3月21日~5月31日)に巡回します。