森アーツセンターギャラリー「ティム・バートンの世界」展

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[text and photo by 中野 昭子] 2014/11/4 UP

←ティム・バートン氏

 ティム・バートンという名前を聞くと、『シザーハンズ』『チャーリーとチョコレート工場』などの映画を思い出す人が多いだろう。または、ハロウィンシーズンにディズニーランドを彩る『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の生みの親、という形で認識する人もいるかもしれない。実写であれアニメーションであれ、映画であれその他の媒体であれ、バートン氏のつくりだす世界は不気味で暗く、それでいて不思議に人を惹きつける。

 

会  場森アーツセンターギャラリー
会  期: 2014年11月1日(土)~2015年1月4日(日) 会期中無休
時  間:10:00~22:00(土日祝は23:00まで) ※入館は閉館の30分前まで

 

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 この秋森アーツセンターギャラリーでは、「ティム・バートンの世界」展が実施されている。当展示はチェコを皮きりに始まった世界ツアーであり、バートン氏の作品がテーマ、モチーフ、プロジェクトごとの10セクションに体系化され、約500点にのぼるドローイングや絵画、パペット、写真、映像などで構成されている。

 エントランスにあるバルーンボーイを横目に通り過ぎると、会場はバートン氏の世界に登場する、ダークで存在感のあるキャラクターたちで溢れ、シュールな熱気が醸し出されていた。

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←本展キュレーターのジェニー・ヒー氏

 最初の展示空間「アラウンド・ザ・ワールド」では、小さな絵に囲まれる。これはバートン氏が世界を旅しながら、映画館の外で思いついた絵を、レストランの紙ナプキンやレターセットなどに記したものだ。

 小さいスケッチブックに書かれているのは、バートン氏が実在の人物を描いたものであり、この絵を見れば、バートン氏が人を観察する際の見え方が追体験できる。
 紙ナプキンには、『マーズ・アタック!』や『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』など、映画に登場するキャラクターらしきものたちが描かれていた。

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 カリフォルニア芸術大学在学中に制作した作品がディズニーの目に留まったことで、1979年から1985年の間、バートン氏はディズニーでアニメーターとして働く。しかし考案した企画やキャラクターは、ディズニーの世界観に合わないということで、採用されなかったものもあるそうだ。

 「実現しなかったプロジェクト」のセクションでは、バートン氏が携わった映画や書籍、テレビ番組などの中で、さまざまな段階で中止になった作品を扱っている。今でこそ華やかな成功を収めているバートン氏だが、日の目を見なかった物語も無数にあるということだ。

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 しかしここで見られるキャラクターたちは、実際に映画に登場するキャラクターと、何かしら共通点を持つ者が多い。その意味で形にならなかったキャラクターも、別のキャラクターの雛形としての役割を担っているのだろう。また過去に採用されなかった企画も、現在成功を収めている作品と同じ世界観を持っていることが見て取れる。恐らくバートン氏の心の中には、根の部分を共有する、無数の世界が遍在しているはずだ。

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←本展キュレーターのジェニー・ヒー氏

 バートン氏の作品に一貫して見られるテーマの一つに「誤解されがちなアウトサイダー」がある。これは、最初は良い意図で行動するものの、結果として惨憺たるありさまを惹き起こすキャラクターたちのことで、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のジャック・スケルトンや、『シザーハンズ』のエドワード・シザーハンズが該当する。

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 彼らは既存の価値観やあり方に、クリエイティビティを駆使して逆らおうとする。それは例えば、エドワード・シザーハンズが氷の彫刻をつくるシーンに見出すことができる。そして既成概念に創作で立ち向かおうとする姿勢は、アウトサイダーたちの父である、バートン氏自身のことなのだろう。

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 会場は、性別や種別などの分類が不可能なものたちで溢れていた。そして異形のキャラたちは、この会場で、居心地よさそうになじんでいる。彼らに取り囲まれても何も違和感を感じないのであれば、それは観衆である我々も、バートン氏の世界に入り込んでいるということなのだろう。

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 キャラクターたちは恐らく、作者の心の中で、今も昔も変わらぬ愛情を注がれている。それは彼らが、映画制作の息抜きとして撮られたポラロイド写真にすら、活き活きと登場していることからも分かることだ。  バートン氏の持つ世界が独特で個性的なのは言うまでもないが、それを形にできるのは、正確で優れた表現力があるからだ。そしてこの展示は、豊かな着想を共有する、またとない貴重な機会なのである。

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 会場出口に描かれた「THE END」の文字は、通常の世界へ戻る目印に見える。しかしその傍らには、「誤解されがちなアウトサイダー」であるバルーンボーイが鎮座しているのだ。まるで繰り返しで埋め尽くされた我々の日常の隙間に、こっそり割り込もうとするかのように。

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