札幌国際芸術祭2014

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[text and photo by 中野昭子] 2014/8/24 UP

 今北海道で開催されている札幌国際芸術祭2014は、日本の各地で行われているビエンナーレやトリエンナーレに引けをとらない規模を持つ、現代アートの祭典である。

 札幌という北の新しい都市で実施されるアートはどんなものなのか。以下、今回鑑賞した展示の内容を紹介する。

 

公式HP: http://www.sapporo-internationalartfestival.jp/

会  期: 2014年7月19日(土)~2014年9月28日(日)72日間
開催テーマ:「都市と自然」 [City and Nature]
ゲストディレクター:坂本 龍一

 

◆北海道立近代美術館 企画展示「都市と自然」

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岡部昌生《YUBARI MATRIX 1992-2014》2014,Installation view of SAPPORO INTERNATIONAL ART FESTIVAL 2014

 鑑賞者はガラスの上を歩いて夕張炭坑遺構のドローイングを見る。対象の上に乗って鑑賞する、というのは気持ちの上で抵抗があるが、そのために鑑賞者の感覚が鋭くなり、また作者の制作過程を追体験する、という効果があるだろう。

 嘗てこの地のエネルギーを生み出してきた炭坑は、日常生活を支えてきたのだということを、より強く実感できるような気がした。

 

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スボード・グプタ《ライン・オブ・コントロール(1)》2008,Installation view of SAPPORO INTERNATIONAL ART FESTIVAL 2014

 キノコ雲の形状が遠目にも不気味な雰囲気を伝えてくるこの作品は、近寄ってみると食器や日常の道具で構成されているのが分かる。これらはインドで真鍮や銅などの代わりに使われるようになった素材、ステンレスでできている。無個性で安価に量産された日用品は、人工増加やそれに伴う食糧不足、増産や材質の変遷、暴発するエネルギーなどを思わせる。

 

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中谷宇吉郎

 ここでは寺田寅彦の弟子であり、物理学者である中谷宇吉郎の研究成果として、雪の結晶の分類や写真、また火花放電の写真等が展示されている。雪と火花では、花のような耽美なかたちをもつという点で共通している。

 またここでは、作家の随筆や関連書籍も置かれている。かまくらの中のようで温かみがある展示スペースは、建築家の青木淳+丸田絢子の手によるものである。布が貼られた空間は足音や声を吸収し、雪の日の静けさを再現しているようだった。

 

◆札幌芸術の森美術館 企画展示「都市と自然」

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中谷芙二子《FOGSCAPE #47412》2014,Installation view of SAPPORO INTERNATIONAL ART FESTIVAL 2014

 北海道立近代美術館で研究成果が出典されている中谷宇吉郎の娘、中谷芙二子の作品は、定められた時間になると、美術館中庭に設置された装置から霧が出てくるものである。

 滝のように降り注ぐ霧にとりまかれると何も見えないが、白く塗りつぶされた空間から抜け出すと、青空と雲を反映した池に霧がたちこめて白く写り込んでいるのが見える。

 水面の空と雲は実体ではなく像でしかないが、霧が実体と虚像の境界を曖昧にしながら、また霧自身がつかの間の幻のように消えていくさまは幻想的であり、霧の中の風景が夢であったような余韻を残す。

 

6

スーザン・フィリップス《カッコウの巣》2011,Installation view of SAPPORO INTERNATIONAL ART FESTIVAL 2014

 豊かな敷地内を歩いていると、自然の中で歌声が聞こえてくるが、それが複数のスピーカーにより、こだまのように重層的な響きを連ねていく。こちらはスーザン・フィリップスのインスタレーションで、曲は中世イングランドのカノン「夏は来たりぬ」である。

 知らない曲なのに懐かしい感じがするのは、作家が抱く夏の森という空間のイメージを、音を通じて共有できるからだろうか。

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宮永愛子《そらみみそら(mine・札幌)》2014,Installation view of SAPPORO INTERNATIONAL ART FESTIVAL 2014

 複数の陶器が並べられたこの作品は、陶器の貫入(温度や湿度の変化の変化などでひびが入る現象)を利用したもので、作品のある場に立っていると、時折ひび割れの音が聞こえてくる。それは好きなタイミングに行うおしゃべりや音楽鑑賞とは全く異なるもので、日常から離れて耳を澄まし、音を体験する静かな感覚が取り戻されるようである。

 芸術の森美術館の敷地内、有島武郎邸の二階にある作品は、ナフタリンで生成された透明な本の中に鍵がかたどられている。本が内含している無数のキーワードや、読者の感情を解放する心の鍵を連想させるこの作品は、時間の経過と共に消滅するのかもしれないが、作品の後ろの窓に写りこんだ像のように、見えない形で人の記憶に働きかけ続けるのかもしれない。

 

◆モエレ沼公園

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 透明なガラスのピラミッドはイサム・ノグチの手によるもので、坂本龍一+YCAM InterLabの「フォレスト・シンフォニーinモエレ沼」が展示されている。ここでは11か所の木々の生体電位のデータを音に変換し、一つの空間に集めて公開されている。

 自然に恵まれたこの公園では、光合成によりエネルギーを生み出す、つまり電磁波を生命に役立てている木々と、光を集結させる人工の建物と、その双方を行き交う鑑賞者はすべて、「都市と自然」という展示のテーマにリンクしている。

 

◆札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ) 特別展示「センシング・ストリームズ」

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山川冬樹 《リバー・ラン・プラクティス:石狩湾から札幌駅前通地下歩行空間へ遡上する》 2014,Installation view of SAPPORO INTERNATIONAL ART FESTIVAL 2014

 歩行者の目をひいていたのは山川冬樹のカヤックだった。これは嘗て札幌に流れていたが、都市化によって消滅する運命をたどった地下水脈を巡って焦点を当てたもの。
山川は古着でつくられたカヤックで、石狩川の河口からチ・カ・ホまでさかのぼっており、その過程は鑑賞者に映像で共有される。

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進藤冬華 《島めぐり – サハリン》 2014, Installation view of SAPPORO INTERNATIONAL ART FESTIVAL 2014

 チ・カ・ホで三カ所に渡って展示される進藤冬華の作品《島めぐり》は、サハリン・北海道・東北を島になぞらえて、作家がそれぞれの島の伝統的な手仕事を習い、その過程や成果を展示したもの。

 それぞれの作品は、一見離れた地域の根底にある関係性や、地元の人たちの交流を通じて生まれた物語などを孕んでいる。また刺し子はチ・カ・ホのインフォメーション付近で展示されているアイヌの布ともリンクし、人間の営みの共通点がほのめかされる。

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COMMUNE 《ブラインド・ブック・マーケット》 2014, Installation view of SAPPORO INTERNATIONAL ART FESTIVAL 2014

 段ボール箱が積み上げられた空間に小さな本が並ぶ。中身が見えないようにブックカバーを掛けられた本には、前の持ち主のおすすめレビューが書かれている。

 この企画「ブラインド・ブック・マーケット」は札幌のデザイナーら「COMMUNE」によるもので、本を提供する人は思い出を書いて他者に提供し、また他の人の本を持ち帰ることができる。こちらは普段手に取らない本に出会える機会であり、また名も知らない他者の思いを引き継ぐことのできるチャンスでもある。

 

◆500m美術館 企画展示「北海道のアーティストが表現する「都市と自然」ー「時の座標軸」ー」

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企画展示「時の座標軸」, Installation view of SAPPORO INTERNATIONAL ART FESTIVAL 2014

 北海道のアーティストの作品がショーウィンドウのような展示空間に並べられているが、実際に中に入って空間を味わうことが可能な場所もある。ここでは通路を横断する通行人が光を遮ることで光に動きが生まれる作品や、札幌の土地に歴史的な時間軸を加えたフィクショナルな地層を模型にしてその中を動くカメラで撮影した映像など、気鋭のアーティストのさまざまな作品に出会うことができる。

 

◆清華亭

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毛利悠子 《サーカスの地中》 2014, Installation view of SAPPORO INTERNATIONAL ART FESTIVAL 2014

 北海道開拓と共につくられたこの建物で開催されているのは、毛利悠子のインスタレーション。扇風機やランプ、石など、つくられたオブジェたちは念入りに配置され、鑑賞者の動かす空気や当日の天候などの不確定要素が絡まって動作する。

 古いものと新しいもの、自然と人工、人為的な動きとテクノロジー、偶然と必然がまじりあって生み出される動きは無数のパターンとして連鎖し、鑑賞者一人一人の前に立ち現れる。

 

◆北海道庁赤れんが庁舎

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 北海道の開拓を象徴する和洋折衷の建物には、「ゴジラ」の作曲家の伊福部昭とアイヌを多くモチーフとした写真家の掛川源一郎という、北海道になじみの深いアーティストの作品が展示されている。オリバー・フランツ氏による展示空間も、建物の重厚な味わいが生かされていておもしろい。


※周遊方法

 札幌駅から近くて便利な場所にあるのはチ・カ・ホと500m美術館、清華亭と北海道庁赤れんが庁舎である。チ・カ・ホにはインフォメーションがあるので、まずそこに寄って情報を得、周り方を考えるのもよいだろう。
 芸術祭の看板となりうる作品の多くは芸術の森美術館、北海道立近代美術館にある。またモエレ沼公園は他の会場からは少し離れているが、ガラスのピラミッドの展示はこの芸術祭ならではであるし、「都市と自然」というテーマを体現している場所でもあるので、鑑賞コースに入れたいところである。
 主要な場所は大体2日で回れると思われる。以下に2日間のモデルケースを示す。

●一日目: チ・カ・ホ→北海道立近代美術館→芸術の森美術館→500m美術館
●二日目: モエレ沼公園→北海道庁赤れんが庁舎→清華亭

 モエレ沼公園付近は札幌市中心部からバスの移動で片道40分程度である。バスの移動も考えると、移動と鑑賞を含めて3~4時間程度はかかるので、期日が一日しかない場合は難しいかもしれない。
 どの会場も特色があって面白いが、特に芸術の森美術館にあった作品と、また清華亭のインスタレーションが、建物の醸し出す雰囲気と相まっていてよかったと思う。以上は主観であるが、鑑賞の際の参考になれば幸いである。

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