東京オペラシティ アートギャラリー「鈴木理策写真展 意識の流れ」

[text and photo by Art inn編集部] 2015/9/29 UP

 2015年7月~9月、東京オペラシティ アートギャラリーにて鈴木理策(1963年和歌山県生まれ)の約8年ぶりとなる東京での大規模個展が開催された。本展は、同年2月~5月に丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催された展覧会の巡回展である。

 5つのシリーズ、《海と山のあいだ》、《SAKURA》、《White》、《Étude》、《水鏡》から構成され、未発表作を中心に新作を含めると写真作品約100点、映像作品3点からなる見ごたえ十分な内容であった。

●公式HP: http://www.operacity.jp/ag/exh178/ 
●会場:   東京オペラシティ アートギャラリー
●会期:     2015年7月18日(土)~ 9月23日(水・祝)
●時間:     11:00~19:00 (金・土は11:00~20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

 

  「意識の流れ」というタイトルは作家自身の経験に基づいてつけられている。「見るという行為に身をゆだねると、とりとめのない記憶やさまざまな意識が浮かんできて、やがてひとつのうねりのような感情をもたらすことがある」という。ちなみに展示構成も作家自身によるもの。

 

Gallery 1 | 海と山のあいだ/Between the Sea and the Mountain – Kumano

   最初の展示室は新作で、作家の故郷である熊野で撮影された「海と山のあいだ」の風景が広がっていた。まず輝きに満ちた海の景色にしばし見入ったあと、それとは対照的に荒々しい灰色の岩礁が広がり、やがて鬱蒼とした木立の中へと景色が移り変わる。

 この日、鈴木氏によるギャラリートークに参加することができた。

 「『見るということ』そのものを提示したい」との言葉どおり、鑑賞者は漫然と目の前の写真を眺めるのではなく、様々な見方を試みながら写真に対峙することになる。というのも、ピントが揺らぐように合された画面の中から自分がみたいポイントというか、安心して見られるポイントを探りながら見ることになるからだ。

 

 《火の記憶》という10分57秒の映像作品は、デジタルカメラで撮影されたもので、映像、スライドショー、映像から抜き出した静止画のコマ撮り動画を並べた構成になっている。

 動画と静止画が切り替わるたびに、鑑賞者はほんの少し慣れ始めたペースを乱され、作家自身の言葉を借りるなら前につんのめるような感覚を覚える。

 

 

 

 

Gallery 2 | 水鏡/Water Mirror   | White | SAKURA | Étude

水鏡 / Water Mirror

 水面とフォーカスのバリエーションが楽しいこちらも新作とのこと。

 湖を撮るとき、水の表面、写り込む景色、水の底とピントを合わせるにはいろいろな選択肢がありその間を行き来するが、レンズを通してあらわれるものと肉眼で見るものの間に差異が生じることを示す作品である。

 

 

White

 こちらも《Sekka》というタイトルのヴィデオ作品で、台形のエッジの効いた箱の中を覗き込むと、中には雪の結晶を捉えた映像がまばゆくめくるめいていた。

 ぼんやりした白い影が引いたり寄ったりして次第にピントが合い、美しい結晶のカタチがはっきりと見えると、見たかったものをやっと見られたという感動が得られる。

 

 白い雪原の風景を写した12点の連作。なんとこの中には雪景色ではなく、単になにもプリントしていない白い紙も混ざっているとのこと。 写真にしてしまうと、もはや判別は困難だ。

 個人的に「ものを見ること」自体を問われた、本展最大の衝撃作であった。

 

 

SAKURA / Étude

 奥の壁面の作品《SAKURA》では、画面いっぱいに吉野の満開の桜が写しだされている。桜は雪とともに鈴木氏のライフワークともいえるモチーフであるが、写真の被写体としてはあまりにポピュラーであり、ともすれば観光PR写真のようにもなりがちだが、本作はそうした意図的な作意のようなものをほとんど感じさせない。

 実際、鈴木氏は綿密な撮影調整をしたあと、最後のシャッターは風が吹いたときに切るというエピソードからも、撮影全体をコントロールすることを手放す姿勢がうかがえる。

  そしてその手前には、《Étude》と題された野に咲く花々の写真が。こちらは鈴木氏が北海道で目にした景色を記憶に留めておこうと撮影したもの。ふと心が動いた瞬間の軽やかさに満ちている。


 今まで写真といえば、そこに何が写っているのかが重要であるという認識でいたが、ここまで「見ること」自体を問い直させられる体験は初めてだったかもしれない。そもそも「写真を考える」ことから始まったという鈴木氏の試みは、世の中のあらゆる物事を見る姿勢そのものを問い直すことに繋がるだろうと思った。

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