東京都写真美術館「須田一政 凪の片(なぎのひら)」展

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[text and photo by 中野 昭子] 2013/10/7 UP

 須田一政氏は、湿り気のある日本の風土を、ひときわ黒の強調されたモノクロ写真で切り取る写真家である。どことなく寂しげで、日常から異常が立ち現われてくる作風は「須田調」と呼ばれ、他の追随を許さない独特の世界を確立してきた。この度東京都写真美術館で行われる展示は、国際的にも名高い須田氏のライフワークが一同に会する、貴重なものである。

 

 

公式HPhttp://syabi.com/contents/suda_issei/index.html
会  場東京都写真美術館
会  期: 2013年9月28日 (土)~ 12月1日(日)
時  間: 10:00~18:00(木・金曜のみ20:00まで)※入館は閉館30分前まで

 

1

風姿花伝

 『カメラ毎日』の連載シリーズで、1975年から1977年に渡って撮られたものである。タイトルは世阿弥の著作に由来し、須田氏は書中の有名な言葉『秘すれば花なり、秘せねば花なるべからず』を目にした時、まさに写真のことを示していると思い、この標題を採用したという。世阿弥の言葉通りに寡黙にして濃密な世界は、饒舌な説明を寄せ付けない、有無を言わさぬ力がある。

 

2

物草拾遺

 1980年から1982年に撮られた作品で、対象を、対象そのままの姿で写真に定着させたシリーズである。須田氏は、同じ距離感で撮られた被写体に関し、「ものが『撮ってください』という様相をあらわしてくる」瞬間を捉えた、と表現している。

 

3

恐山

 会場の中央に展示されるこのシリーズは、『赤い花』と同様に、須田氏のキャリアの中では初期の作品であり、その意味で須田氏の核を成すものだ。暗く神がかった土地は、黒く焼きこまれた写真の中で、一層闇が深まって見える。ここにある情景は恐らく、風土にまとわりついた歴史そのものを示しているのだろう。

 

4

赤い花

 須田氏は漫画家のつげ義春が好きだとのことで、『赤い花』というタイトルはつげ氏の漫画から採られている。このコーナーは展示方法がイレギュラーで、まるで狭い路地に迷い込んだよう alignleftな気分になるが、同時に須田氏が撮影した過程を追体験しているような感覚を覚える。

 

5

東京編

 1970年代から須田氏が撮り続けたものである。須田氏の作品は、単写真で目にすることが多いため、このようにまとめて見られるのは貴重な機会である。須田氏は、同じ場所にどうしようもなく魅かれ、繰り返し撮ってしまうという。その集中力がこの60点の作品に結実しているのだろう。

 

6

凪の片

 最近2年間位に撮られた作品20点から成る。ここに展示されている作品は須田氏の集大成であり、今までの写真作品のすべての方向性が含まれている。幕が下りて余韻を楽しむことでは満足できないという須田氏は、写真を終わらせることなく、ずっと自分の視線の先を探求し続けたいという。

 


 須田氏は物語が好きだという。確かに須田氏の写真を見ていると、写っている「場」において、過去に何があり、将来何が起こるのかが気になってくる。それは単純に被写体の背景が想像できるということではなく、その情景に染み込んだ歴史の気配のようなものが、写真を通して垣間見え、もっとよく知りたいという気持ちが呼び起こされるのである。

 東京は人通りが多く賑やかな街である。しかしいかに栄えている場所でも、一切の人影が消える瞬間はある。須田氏の写真は、そんな人間不在の瞬間を無数に含んでいるようだ。もちろん撮影の場には、撮影者である須田氏が存在するので、全く無人ではないはずである。だが須田氏の作品には恐らく、人の介在しない、草葉の陰のような時間が集積している。

 「凪」は風が止まった瞬間を示す。この言葉を含む展示タイトルは、時の流れが留まる淵のような須田氏の世界を明示し、根底で暗い情念を放ち続ける須田氏のまなざしを体現しているように思う。

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