第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示 報告会

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[text and photo by 中野 昭子] 2013/7/25 UP

 ←アーティストの田中功起氏とキュレーターの蔵屋美香氏。田中氏が手にしているのは授与された賞状。

 イタリアでは今「第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」が開催されており、今年は日本館が特別表彰を受賞した。これは昨年の「第13回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」における日本館の金獅子賞受賞に続く快挙であるが、どちらも震災がテーマという共通点がある。2013年7月18日、日本館の展覧会を主催する国際交流基金にて、アーティストの田中功起氏とキュレーターの蔵屋美香氏のお話を伺った。

 

2←式典の様子。ヴェネチア・ビエンナーレに対する各国メディアの注目度が大きいことが伺い知れる。

 ヴェネチア・ビエンナーレはアートの国際展の中でも最も古いものであり、国ごとのパビリオンがあり、賞を各国で競うという構図がある。もちろん長い歴史の中で紆余曲折はあり、また各回ごとにカラーの違いはあるものの、数あるアートの祭典の中で、この国際展が賞レースの場であり、アート市場を左右することは否定できないだろう。
 しかし今回の美術展の総合キュレーター、マクシミリアーノ・ジオーニ氏は、ヴェネチア・ビエンナーレのあり方に批判的であり、メイン会場の作品も物故作家やアウトサイダー・アートが多いとのことである。田中氏の作品は「共同とその失敗についての鋭い省察」に関して評価され、賞を授与されている。なお、今年の受賞者は以下の通り。

国別参加部門
金獅子賞 アンゴラ エドソン・チャガス「Luanda, Encyclopedic City」
特別表彰 キプロスおよびリトアニア グループ展 「Oo」(キプロス)「oO」(リトアニア)
       日本 田中功起「抽象的に話すこと – 不確かなものの共有とコレクティブ・アクト」

国際展「エンサイクロペディック パレス」参加アーティスト部門
金獅子賞 ティノ・セーガル
銀獅子賞 カミーユ・アンロ
特別表彰 シャロン・ヘイズ  ロベルト・クオーギ

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 キュレーターの蔵屋氏は、今回の展示にあたって、今という時期に日本が世界に作品を出すにあたり、震災に言及しないのは考えられなかったという。しかしアーティストの田中氏は、日常から作品が派生していく作風であり、直接震災の地に出向いて熱く語る、というタイプの作風ではない。
 田中氏は、今回作品を作るにあたって、今の時点で何ができるのかを考えた。そこで、被災地に直接赴いているアーティストや、彼らを追う人々よりも出遅れたことを、否定でなく肯定で受け止め、更に外側から作品をつくりはじめることにしたという。

 

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←モニターで日本館の様子を紹介する蔵屋氏。陶芸の写真の下部にあるのは詩の作品。さまざまな作品が混在する空間になっている。

 田中氏の作品はインスタレーションと映像作品から成り、観客が歩き回って見る形式を採っている。この展示形態は、見る側が作品を自分の時間の中に取り込みながら閲覧することができ、共感を呼びやすいであろう。
 作品は震災を共有する糸口を探るもので、映像の中で人々は、破損した陶芸を修復したり、階段を降りたりする。インスタレーションは写真や詩などで、一連の作品を見ても、全体として何の話なのか、直感的に伝わるわけではない。蔵屋氏も、長くて抽象的なこの作品は理解されづらいだろうと予想していたが、心理的にも距離的にも震災から遠い場所にいる観客からダイレクトな反響があったという。それは震災というトピックからは間接的な形で、人々の共感を拾い集めることができたことを示している。


 田中氏によれば、今回の制作過程で、映像作品中の共同作業が失敗することがあり、それは制作当初は意図していなかったものであるという。作品づくりに当たって、複数の人が一つのものをつくる過程を映像にするだけでは何か足りないという意識があった田中氏の中で、失敗という要素が活かされていったことになる。今回の受賞理由「共同とその失敗」に関し、美しくまとめられがちな共同作業という物語の中で、期せずして挿入された破綻の話が評価されたことは間違いないだろう。
 先行きが必ずしも明るくないこの時代において、日常から共感できるものを拾い集め、それが成功しているか失敗しているかで判断せずに提示するこの作品が評価された。その事実は、この作品に携わった多くの人と、それを観た人すべてへのギフトになったことと思う。

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