三菱一号館美術館「プラド美術館展—スペイン宮廷 美への情熱」

[text and photo by 中野 昭子] 2015/10/27 UP

 スペインが近代史の中で最も輝きを放った時期、歴代のスペイン王たちは、ベラスケスやムリリョ・ルーベンスなどの大家の絵画を収集した。それらを擁する建物はプラド美術館と称され、ヨーロッパの美術館の中でも重要な存在であり続けている。
 この秋、プラド美術館の展示がマドリード、バルセロナと廻り、そして三菱一号館美術館に巡回してきた。今回展示されるのは、巨匠たちが手掛けたスモールサイズの作品である。小ぶりの画面の中に、広い背景と深い歴史的意義が込められた絵たちを味わってきた。

●公式HP: http://mimt.jp/
●会場:   三菱一号館美術館
●会期:     2015年10月10日(土)~2016年1月31日(日)
●時間:     10:00~18:00(金曜、会期最終週平日は20:00まで) ※入館は閉館の30分前まで

 

Ⅰ.中世後期と初期ルネサンスにおける宗教と日常生活

 本展チラシにも取り上げられた、ヒエロニムス・ボスの《愚者の石の除去》を見ることができる。本邦初公開の当作品は、小品で油絵で風物画であるという、ボスの作品の中で珍しい特徴を備えている。
 ボスの没後500年に当たる本年に、この絵と出会える幸運を感謝したい。

 

 

Ⅱ.マニエリスムの世紀:イタリアとスペイン

  ティツィアーノやエル・グレコが描き出すキリストや天使、聖母マリアは、重厚だが躍動感に溢れ、濃密な空気が小さな画面から流れ出しているようだ。
 工房を率いて制作していたエル・グレコだが、当展示の《受胎告知》は、サイズが小さいがゆえに習作もしくは雛形である可能性が強く、助手の手が入っていない直筆の作品とされている。

 

 

Ⅲ.バロック:初期と最盛期

 ムリーリョの《ロザリオの聖母》や、ルーベンスの下絵を使ったコルネリス・デ・フォスの「《アポロンと大蛇ピュトン》などが、聖母の崇高さや神話に出てくる神々の躍動性を伝える。
 一方で、骸骨や干からびた書物が描かれたヴァニタス画や、盛りをわずかに過ぎて散りこぼれそうな花の静物画は、生の儚さと時の移り行きを示す。

 

 

Ⅳ.17世紀の主題:現実の生活と詩情

 ベラスケスの《ローマ、ヴィラ・メディチの庭園》は、時代に先駆けて風景画を主題とした作品で、午後の遅い時間の沈んだ空気が反映され、自然や時のうつろいが閉じ込められているようである。
 ピーテル・ブリューゲル(二世)の《バベルの塔の建築》は、父ブリューゲルの主題を受け継いだ作品だが、父のものに比して小さく、また円形で遠近感が歪められているため、水晶玉の中の世界を覗くような不可思議な魅力を放つ。

 

Ⅴ.18世紀ヨーロッパの宮廷の雅

 スペインの王家はハプスブルグ家からブルボン家に変わり、それに伴って絵の好みや流行も移り変わった。宮廷画家にはヴァトーの優雅な画風と共にフランスの画家が加わり、また啓蒙思想が発展すると共に、市井の人々の生活風景などが描かれるようになる。

 

 

 

Ⅵ.ゴヤ

 ゴヤの作品が展示されているこのコーナーでは、下絵と完成した絵の変化を見ることができる。
 下絵の段階《酔った石工》は、酒に酔った石工を支える二人が嘲笑を浮かべており、人間観察が効いた風刺画調である。一方で完成した段階《傷を追った石工》は、石工はあたかも磔刑に処されたキリストに描かれ、堅実な主題に見える。
 ここでの対比により、同じ絵であっても、人間の表情によって印象が全く異なることが明白になる。また画家ゴヤの技術力と共に、ゴヤ個人の性格が表れているようで面白い。

 

Ⅶ.19世紀:親密なまなざし、私的な領域

 家族や親しい友人など、プライベートな空間が大切にされる風潮に伴い、絵画のモチーフも肖像画や個人的な領域に変わっていった。人々は小さな絵画や小型肖像画を所望し、自宅や自室に飾った。ここで見られる絵は特に、三菱一号館の空間にマッチしているようだった。

 

 

 


 三菱一号館美術館は、もと私邸を改築しただけあって、絵を鑑賞すると共に、まるで尊敬している人の家へ、招待をあずかったような満足感を得られる。純粋に美術品を閲覧するだけの場というよりも、誰かが好きなものだけを集めたコレクションを見に行くような、秘められた楽しみを発見できる場なのだと思う。
 今回出展されているのは、確かな力量の画家たちの作品の中でも、当時の風俗や時代背景などをぎゅっと閉じ込めた、豊かな文脈を持つものばかりだ。至宝に溢れるプラド美術館の中でも、確かな審美眼で選び抜かれた宝石のごとき絵が、三菱一号館美術館の親密な空間で味わえる、この贅沢な展示をお見逃しなく!

 

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