東京都写真美術館「マリオ・ジャコメッリ 写真展」

Exif_JPEG_PICTURE

[text and photo by 中野昭子] 2013/4/5 UP

 「白、それは虚無。黒、それは傷跡」…この沈鬱ながらも鋭い言葉は、イタリアの写真家マリオ・ジャコメッリのものである。
 ジャコメッリの代表作の一つに、雪の中を舞う若い神父たちをとらえたシリーズがあるが、いずれ神に仕え俗世間と決別していく青年たちの一瞬の儚い姿は、歓喜とメランコリーを内在しており、忘れられない印象を与える。
 今回東京都写真美術館で展示されるのは、ジャコメッリ自身がプリントした精度の高い220余点の作品である。白と黒のハイコントラストの写真は、濃密で研ぎ澄まされた時間を提供し、見る者の記憶に深く刻みこまれることだろう。

公式HPhttp://www.syabi.com/contents/exhibition/index-1807.html
会  場
東京都写真美術館
会  期: 2013年3月23日(土)~5月12日(日)
時  間: 10:00~18:00(祝日・振替休日除く金曜のみ20:00まで)
※入館は閉館30分前まで

 

Exif_JPEG_PICTURE

 会場に入ってすぐの「初期写真」は、ジャコメッリが初めて撮った写真で、クリスマスイブに購入したカメラで撮影されたものである。恐らくジャコメッリは、自分へのプレゼントとしてカメラを購入したのだろうが、結果としてこのプレゼントは、彼の写真を見るもの全てへの、大きなギフトになったということになる。
(本展キュレーター アレッサンドラ・マウロ氏)

 

Exif_JPEG_PICTURE

 「死がやってきておまえの目を奪うだろう」のシリーズは、ジャコメッリが5~6歳の時に働いていた施設が題材になっている。若さに溢れた少年にとって、死が身近な環境はショックだったことだろう。後にジャコメッリは同じ施設を訪れてこのシリーズを撮った。

 

Exif_JPEG_PICTURE

 イタリアの小さな町である「スカンノ」は、古い伝説は生きる閉ざされた村で、カメラマンに人気のスポットだ。会場の入り口にも用いられている写真は、MOMAのキュレーターのジョン・シャーカフスキーに20世紀を代表する100枚の写真の1枚として選ばれたもので、少年の視線の先に老人がおり、若い人生が老いた人生へ向かう象徴のような作品である。

 

Exif_JPEG_PICTURE

 ジャコメッリは、世の中は陰と陽が入り交じり、さまざまな力が戦う場だとした。「ルルド」は、多くの人が奇跡を求めて集う姿に触発された作品である。
 人生は終わりなき苦しみに満ちたもので、奇跡という不確定要素を求めざるを得ないことを示唆している。

 

Exif_JPEG_PICTURE

 小さく閉ざされたコミュニティを好んだジャコメッリが選んだものの一つに、神学校が含まれる。
 ジャコメッリはある神学校に、数か月に渡って毎日通った。ある日、この地方には珍しく雪が降った。ジャコメッリが急いで神学校へ行き、学生たちを集め、雪を投げて遊ぶように促したところ、あっという間に遊戯の輪が広がった。これが「私にはこの顔を撫でてくれる手がない」のシリーズのはじまりである。
 黒衣の若者が、めったに降らない雪の中で無邪気に戯れる姿は、一つ一つの瞬間が二度と再現されないことを知らしめるようだ。

 

Exif_JPEG_PICTURE

 まるで映画のようなショットの続く「男、女、愛」は、ストーリーボードのように写真を展開することが想定されたシリーズで、鮮烈でドラマチックである。
 5枚の写真が連続する作品はジャコメッリが自分で貼っており、その順番で閲覧されることが想定されている。

 

Exif_JPEG_PICTURE

 「詩のために」はランドスケープではなく、抽象的な写真で構成されている。これはジャコメッリが一瞬目にして感動した画面であり、どの作品でも、眩しくて直視できない白と、灰色が押しつぶされて消えた後の黒が拮抗する緊張感を味わうことができる。

 

 


Exif_JPEG_PICTURE

 今回の展覧会のキュレーター、アレッサンドラ・マウロ氏によれば、写真家は2つのタイプ、写真を使って本を作るタイプと展覧会を開催するタイプに大別されるという。
 ジャコメッリは後者、つまり展覧会を主体とする方だが、彼は異なる展示を行う場合でも、同じ写真を繰り返し使った。恐らく詩人が同じフレーズを別の作品に挿入するように、作家の中で持続している思い入れを、新しい要素にも忍ばせていたのだろう。
 それはジャコメッリが、過去と格闘しながら現在と向き合い未来を見つめていたことの証であり、円環的に持続していくあらゆる事象へ敬意を払っていたことの表れである。

関連記事

Art inn Premium [インプレ]

各美術館・展覧会の最新情報をはじめ、様々なアートに関する口コミ情報をお手軽にPC・携帯でチェックできます。
プレゼント応募もこちらから!
[インプレ] のご利用方法はこちら

Art innに関する問い合わせ先

株式会社IHIエスキューブ
Art inn編集部
e-mail:art-inn@iscube.ihi.co.jp
ページ上部へ戻る
error: Content is protected !!