三菱一号館美術館「PARIS オートクチュール 世界に一つだけの服」展

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[text and photo by 中野 昭子] 2016/03/15 UP

[右から三菱一号館美術館担当学芸員・岩瀬慧氏,三菱一号館美術館館長・高橋明也氏,パリ市立ガリエラ美術館館長・オリヴィエ・サイヤール氏] 

 

 

今,三菱一号館美術館で開催中の「PARIS オートクチュール 世界に一つだけの服」展は,2013年のパリ市庁舎で開催された展示を再構成したものである。シャネル,スキャパレリ,ディオール……一流ブランドの中でも,とりわけ魂を傾けて制作された作品ばかりとあれば,期待せずにはいられない。

●公式HP:  http://mimt.jp/paris-hc/
●会場:  三菱一号館美術館
●会期:      2016年3月4日(金)~5月22日(日) 
●時間:     10:00~18:00(祝日を除く金曜、会期最終週平日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで

 

 38章構成でほぼ10年刻みに展示される,約120点ものドレスや小物たちは,全て注文によって創作されたオーダーメイドであり,その時代のアートを反映している。例えば「第3章::贅沢なエレガンス」で展示されているスキャパレリの「イブニング・グローブ《爪》」は,つややかな黒い手袋の先に金色の爪がついており,服飾小物というよりは,シュルレアリスム作家の作品のようだ。

 

 

 

4 オートクチュールは芸術品であると共に,産業社会の生産物でもあり,景気の影響も受ける。第二次大戦下,シルクが生産不足になった時につくられたカルヴェンのイブニング・ドレス《恍惚》は,材質にアセテート・レーヨンが使用されている。春の女神の衣装のようなピンクと緑の柔らかい色合いは,厳しい現実の中,女性たちに精神的な休息と夢を与えたのだろう。

5 本展は,過去の作品と共に,現在のデザイナーの手による関連作品が展示されているのも特徴の一つ。白いシャネルスーツに並置されているのは,シャネルの後継者であるカール・ラガーフェルドの《コートドレス》。こちらはスーツのように見えるが分断されていないワンピースとなっており,だまし絵の要素を持つ。

 

 

 

6 カラフルなボンボンが華やかなドレスや,《的》と名づけられたワンピースはピエール・カルダンの手になる作品。どちらもモダンな雰囲気で,若い現代女性でも似合いそうだ。時代の異なるモデルが着用した姿や,シチュエーションを創造するのも楽しい。

 

 主役である服飾品以外にも,クチュリエたちが残したスケッチも見逃せない。シンプルだったり華やかだったり,書き手の個性溢れるイラストを見ていると,時代背景や当時の流行が想像できる。また,フランソワ・コラールが撮影した,さまざまなクチュリエたちの手の写真にも,個性と表情を感じ取ることができる。

 

 オートクチュールは,依頼主がいなければ存在しなかったはずである。そんな個人の所有物としてつくられたものが,依頼主の手を離れて美術館の所有となり,展示されているのは,個人だけではなく多くの人の目に触れ,共有財産となるべきだと判断されたということだ。実際,本展の作品は,人が着用していなくても圧倒的な存在感を示し,輝いていた。
 またオートクチュールは,完成するまでの間,着用者が体型を変えることは許されない。豪華で手の込んだものであるほどに時間がかかるわけで,着用者への負担も大きくなる。たゆまぬ節制と忍耐と努力があって,初めて身に纏うことができるのだろう。

 

 

11 スタイリストやデザイナー,パタンナーや縫い子,それに着用者,携わる人すべての理想とプライドが詰まったオートクチュールたちを目にする幸せは,眼福と表現するにふさわしいだろう。本展以降は貸し出されることがない作品もある(バレンシアガ,ドレスとペティコートのイヴニング・アンサンブル 1967年春夏)ので,この機会を逃さず足を運びたい。

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