トップコラムバックナンバー2007年4月>横須賀美術館《生きる》展紀行
 横須賀美術館《生きる》展紀行

横須賀美術館へ行った。
京浜急行線の快速に乗り馬堀海岸で下車してバス。
バスは海岸線の道を走って京急観音崎ホテルまで。
その向かい側に横須賀美術館はあった。
天気も良かったから、美術館の前景に広がる海がことさらに気持ちいい。
都内からはるばるやってくる甲斐がある素晴らしい景色だ。


美術館は、海の陽光をたっぷりと受け入れ、潮風がそよそよと通り抜けるような開放的な作り。
明るい展示会場で、特別企画展《生きる》をじっくりと観た。

まずは石内都さんの展示室。
美しい、のだ。
乳房を切り取られた胸。
乳首のない乳房。
変形した指。
火傷の後姿。
そのような「傷ついた女の肉体」の写真なのに、清浄な美そのもの。
そこに「傷」を感じ取ることは全くない。
虚飾のない生そのものの存在感が示す美しさ。

次には石田尚志さんの展示室。
石田さんのビデオ作品は、細かい文様を描く過程をビデオで撮り、それを映し出す作品だ。
映像を見ると、文様がひとりでに増殖していく様を体感できる。
つまり、美が創造される「時間」を作品の中に感じ取ることができるのだ。

3番目はヤノベケンジさん。
楽しい。
工作を楽しむエネルギーを感じ取れる。

次の展示室には、舟越桂さんの木像彫刻と清水慶武さんの平面ペインティングが同居する。
舟越さんの作品は、さすがの強烈な存在感。
その激しいインパクトを中和するような清水さんの色彩。
だって、舟越さんの《スフィンクス》シリーズの完成度はズバヌケ過ぎている。
それだけでお腹いっぱいになってしまうよぉ。

それから真島直子さん。
鉛筆画の平面もいいのだけど、立体の《密林》2体がスゴイ。
(あとで山口裕美さんに会い、その《密林》を気持ちワル~イと言っていたけど)
ともかくも生きているのだ。
舟越さんの彫刻作品のシリアスな神話性とは全く異なる、もっと原始的、あるいは呪術的な生命感が毒々しく放たれている。

そうしたらギョエ!!
よれたTシャツを着た変な男が壁の角を齧っているではないか?
一瞬、変態者が展示会場に紛れ込んで狂態しているのかと思ってしまった。
まさかぁ…。
そうそう、それは木村太陽さんのパフォーマンスアートでした。
お騒がせなおかしさ。

太陽さんが齧っていた壁の、閉ざされた展示室に入ると、暗闇の中に、岡村桂三郎さんの巨大な木造屏風作品。
その深刻な重厚さを茶化すために、太陽さんは壁を齧っていたのかなぁ…。

太陽さんはパフォーマンス以外にも次の展示室にユニークな作品を飾っていた。
笑えるよぉ。
掃除機の柄をお尻に突っ込んでネズミみたいなポーズをとった立体(人形)。
展示室の隅には、ビニール袋を顔にかぶった係員?の等身大立体(人形)
うんうん。それって頭の固い係員への制裁かよぉ。
だってさ、さっき太陽さんの壁齧りを写真に撮ろうとデジカメを構えたら、即座に係員のおばちゃんに注意されたもんな、写真は禁止です、って。
だけど、企画展の入り口でオイラはちゃんと、写真撮影可能かどうか確認したんだよな、OKだって。
それを言ったらその係員、確かめて来ますからって言ってそそくさと事務所へ。
戻るのを待っている間、写真撮らずにいたけど、戻ってきて、今日だけは撮影許可だそうです、って今さら言われても、その時にはもう太陽さんの壁齧りは終わってしまっていた。
せっかくのシャッターチャンスを逃してしまったわけすでな。
そんな係員をからかう如しの、展示会場係員の立体作品なのですな。
だってさぁ、写真撮影を禁止するなんて、たいていそうなんだけど、美術館の閉鎖的な傲慢じゃない?
ばしばし撮影させてどんどん宣伝させるべきじゃない?
そういうのが現代アートの潔くも快活なエネルギーなのにさ。
(…ま、現代アートも著作権とか煩くてたいてい写真は撮らせてくれないけどね。)

そうして最後の展示室は小林孝亘さん。
癒されます。
タイで暮らしていた小林さんは、なんていうか、石内都さんのずっしりした清浄感とはまた全く異なる、清々しくて軽やかな美しさがある。
森の絵もいいし、その対面に展示された川の絵もいい。
あとで小林さんに会えたので話を聞いたら、その川の絵、「命の洗濯」っておっしゃっていた。
な~るほどぉ。


たっぷりと横須賀美術館のオープニングを満喫できた。
夕方になってバスで帰路。
海岸線を走るバスの窓から、海に沈もうとする真っ赤な太陽を見ることができた。
なんという圧倒的な美しさ。
美術館では人間たちの芸術。
海には(著作権のない)太陽。
なんだろうなぁ。
あんな美しい自然があるのに、どうして人間は何かを作ろうとするのだろう。
しかも著作権なんか付けて(……クドイっつうに)。

自然の美と人間が作ろうとする美。
人間って、何ゆえに生きているんだろう…。
そんなことをしみじみと考えてしまった、横須賀美術館の《生きる》展紀行でありました。

[texy by Junichi ishikawa]


お知らせ
Art inn では、読者の皆様からの「こんな展覧会を観ました!」や「こんなを感動しました!」といったご感想をお待ちしております。どしどしメールにてお送りください。
メールはこちらへ。採用させていただいたご感想を”Art inn受信box”に掲載させていただきます。