
[ text and photo by 波野月子] 2010/7/13 UP
会 期
2010年4月6日(火)~7月25日(日)
この春にオープンした三菱一号館美術館。
丸の内という東京の真ん中で、どんな空間を提供してくれるのかな、と足を運びました。
建物は1894年に建てられた当時の姿を再現していて、ビルの谷間にちょこんと覗かせている様子は、ヴァージニア・リー・バートンのかわいい絵本「ちいさいおうち」を思い起こさせました。

建物に近づくと、出入り口や窓枠の様子、灯りの感じなど、細部に渡って古きよき時代を彷彿とさせます。
途中で案内の看板の「すみれの花束をつけたベルト・モリゾ」と目があって、ドキリとしました。
黒い衣装に身をつつむ女性の肖像は、モデルの意志の強さと不思議な色気をそのまま伝えていて、画家の洗練された技術とモデルとの親密さを表しているようです。
メインで展示されている絵の作者はエドゥアール・マネ。
彼は古典的な遠近法や主題の使い方を崩した作風を開拓し、また裸婦の不思議な作品をサロンに提出したりして、スキャンダルを起こします。
経歴を見ると、サロンの風雲児、画壇の鬼っ子という印象ですが、ゾラの人となりを彷彿とさせる絵を残していたり、ボードレール、ロートレアモンなどのそうそうたる文筆家・詩人と親交があったようで、常に素敵な友人に囲まれていた感じがします。
こうした人々と理解しあえるということは、マネ自身が大胆さと繊細さを併せ持っていた証なのでしょう。
実際、絵を見ると、作者の情緒・教養の豊かさが滲んでくるようで、精神的なゆとりと充実感を感じました。
また、同時代の作家たちの油彩、彫刻、写真なども展示されていて、マネが生きた時代をうかがい知ることができます。
思えば、彼が活躍したのはあの二つの戦争が始まる前、パリが充実と賑わいを見せていた華やかな時。
マネが生きた時間は、この建物、旧三菱一号館がつくられた時に近しい時代でもあります。
場所は違えど、科学と進歩に人々が限りなく希望を持っていたという点では共通していたのではないかと思いました。

マネを満喫した後は、併設されているcafe1894へ。
ここはもともと銀行の窓口だったとのことで、天井が高く、正面にあるカウンターが目をひきます。

メニューもフィッシュアンドチップスなど、どこか懐かしい雰囲気。
カフェを出た後、夜の光の中で見る三菱一号館美術館は、建物ごとタイムスリップしてきたみたい。
日中の印象とはちょっと異なる、レトロで秘密を隠した顔に見えたのは、マネの謎めいた絵を見た後だったからかもしれませんね。

