「ピカソ、マティス、シャガール・・・巨匠が彩る物語」展
ピカソやシャガール、マティス、ミロなどよく知られる巨匠たちが挿絵本を作っていたのをご存知でしょうか。20世紀中盤、モダン・アートの高まりと共に、オリジナルの版画を収めた挿絵本も一つの黄金期を迎えました。前世紀から続く版画への関心の高まりと技術革新、画家たちによる実験的な制作を背景とし、ヴォラールやスキラ、テリアードといった出版者が牽引役となって豊かな挿絵本の世界が花開いたのです。モダン・アートの作家たちは有能な刷り師の協力を得て版画特有の様々な表現を試み、一点一点が独立した作品として成立し得る挿絵を作り上げました。その上、あるテーマのもとに制作された連作版画としての挿絵は、単独の版画作品とは異なる魅力や広がりを有しています。
「本をめぐるアート」を収集方針とする当館ではこれまで多くの挿絵本を収集してきましたが、その中身をじっくり紹介する機会には恵まれませんでした。そこで今回は代表的な挿絵本9作品をピックアップし、3章に分けて紹介します。シャガールやピカソが描いた動物たち、サーカスに魅了されたマティス、レジェ、コールダーの色と形、ロンゴスやラブレー、ジャリ、ツァラのテキストを彩ったドランやミロ、シャガール。展示替えを挟みながら版画による挿絵を約270点展示します。
挿絵の依頼を受けながらビュフォンのテキストを参照しなかったピカソや、登場動物を自由に入れ替えたシャガール、自身で文章も書いたレジェやマティス、テキストと挿絵を一体化させたミロなど、文と絵の関係は様々ですが、いずれも創造性と独創性のあふれる挿絵となっています。作品成立をめぐる背景やあらすじ、画家たちの解釈と工夫と共に、版画の濃密な世界をお楽しみください。
開催期間
前期 2006年11月18日(土)-12月24日(日)
後期 2007年1月5日(金)-2月18日(日)
休館日
月曜日(1月8日、2月12日の祝日は開館、翌火曜日1月9日、2月13日は休館)、
12月25日~1月4日
観覧料
500円(400円)、大高生300円(240円)、中小生150円(120円)
*( ) 内は20名以上の団体料金
リピーター割引導入
観覧済の有料チケットを提示すると、次回来館時に団体料金でご覧いただけます。
(本展観覧日から1年間、1名様、1回限り有効)
電話
048-827-3215(代)
開催場所
うらわ美術館
さいたま市浦和区仲町2-5-1 浦和センチュリーシティ3階
交通案内
電車利用/JR京浜東北線、高崎線、宇都宮線で浦和駅(大宮から8分、上野から20分、新宿から25分)下車。西口から徒歩7分。
車利用/東北自動車道(浦和出口から9㎞)、首都高5号池袋線・埼玉大宮線(浦和南出口から4㎞)、外環自動車道(外環浦和出口から5㎞)。浦和センチュリーシテイビル地下の公営駐車場(有料)を御利用下さい。
Editor's review
浦和駅西口、レッズ優勝で祝勝ムードに沸く商店街を抜けて、旧中仙道沿いの結婚式場などの入るビルの3Fに、うらわ美術館はある。主に「地域ゆかりの作家」と、「本」にまつわる収集活動を行っている。個人的な思い入れのあるこの土地に、今日は仕事としてやってきた。まさに青春真っ盛りの高2から約2年半、私は近くの美術予備校に通っていた。2001年に浦和市・大宮市・与野市の3市が合併し、さいたま市が誕生してから、混沌とした空気は整然としたものになっていった。街は明るく開けたが、気持ちはどこか少し寂しくもある。
さて、今回の展示だが、「ピカソ、マティス、シャガール・・・巨匠が彩る物語」物語などの挿絵として使われた、美術界の巨匠たちの作品をずらりと紹介している。パブロ・ピカソ、マルク・シャガール、フェルナン・レジェ、アンドレ・ドラン、アンリ・マティス、ジョアン・ミロ、そうそうたる顔ぶれだ。各々の確立した世界観を持つ作家たちが、既存の物語や自身で書いたテキストとコラボレートし、新たな側面を見せる。会場は作家ごとにまとまって展示され、そこに展開される“物語”の世界を満喫できる。
ピカソやシャガールは動物を描く。モノクロで描かれたそれらは、物語のCASTとしてさまざまな表情をみせる。ピカソの描写力はさすがで、平易な言い方だが、どれも“絵”としてかっこいい。一方、シャガールの動物画はとても“もやもや”としている。黒く茫漠とした画面は、夜の闇や、霧、靄そのものといった雰囲気で、小さなお子さんはちょっと怖がりそうである。また各作品の横には、その絵の“お話”が添えられており、絵本を読んだ気分になれるのが嬉しい。双方、銅版画で制作され、作家の手による独特のタッチが楽しめる。この辺りの話は、また後ほど。
マティス、レジェ、コールダーはサーカスを描く。色鮮やかでリズミカルに描かれた作品からは、彼らがサーカスという非日常の世界に、いかに触発され魅了されていたかが窺える。またドランはフランス文学の代表ラブレーの傑作大長編である、巨人王ガルガンチュアの息子、パンタグリュエルの成長と冒険の物語を描く。輪郭線は一切表現せず、調和の取れた美しい色彩で色面分割し、その境界の部分を地の白のままで残す描法が、精巧なモザイク画やタイル画のような印象を与える。
順路最後のブースには再びシャガールが登場。先ほどとは一転しカラーの作品が並ぶ。困難な運命を背負った恋人どうしが、どうにか日の目を見て最終的にはハッピーエンドになるというお話。赤、青、黄、緑といった原色を多用しているのに、全体としては柔らかい印象になるのはシャガールならでは。
では、前出の銅版画の技法について軽く触れてみる。私が本展で興味を持ったのは、ピカソの生き物を描いたモノクロの作品。シュガー・アクアティント(別名、リフト・グラウンド・エッチング)と呼ばれる、銅版画の一種だ。銅板にあらかじめ腐食防止剤を塗っておき、その上から砂糖とアラビアゴムの粉末を混ぜ合わせたもので描画していく。そしてその部分のみが腐食し像になる。銅板表面をニードル(針)で引っかいて線的な表現をするエッチングとは対照的に、柔らかな筆のタッチと、繊細な濃淡が特徴的だ。眼を凝らすと、その雄弁な濃淡の中にザラザラとした粒子の流れが見えてきて、まるで天の川の底を覗いているような気分になる。中でも、羊を描いた作品が秀逸。むくむくとした羊の毛を、的確な筆さばきに加え、自身の指紋をペタペタと直にスタンプすることで表現している。子供のように作家が無心に楽しんで制作するさまが目に浮かぶようである。

また、うらわ美術館では、美術と鑑賞者の間をつなぐ試みとして、受付にて5枚の小さな丸いシールが手渡され、お気に入りの作品の下に貼っていく。鑑賞者としての意思表示を残せるわけだ。また、出口付近にはカラフルな付箋紙と鉛筆が用意され、気に入った作品についてのコメントを書き込み、壁に思い思いに張り込んでいく。「自てんしゃの絵がうまいね。」「とても筆のタッチがすごかった。」「簡単な色彩や形でも人を引きつけるものがある。」など、大人も子供も素直な感想を寄せていて心地好い。
クリスマス直前、こんな物語をめぐる展覧会で、ほっと一息入れるのもおすすめだ。
[text and photo by Junko Matsuda]

