| |
「甘美なる聖母の画家 ペルジーノ展 ~ラファエロが師と仰いだ神のごとき人~」
1
2
3
4
5
1 ドメニコ・ガルビ
≪聖母子と諸聖人(デチェンヴィリ祭壇画中央パネルの模写≫1797年? 油彩、カンヴァス ウンブリア国立絵画館
2 ペルジーノ≪聖母子と天使、聖フランチェスコ、聖ベルナルディーノ、信心会の会員たち(正義の信心会の旗幟≫
1496年頃 テンペラおよび油彩、カンヴァス ウンブリア国立絵画館
3 ペルジーノ≪聖母子と二天使、鞭打ち苦行者信心会の会員たち(慰めの聖母)≫
1496-1498年頃 テンペラ、板 ウンブリア国立絵画館
4 ペルジーノ≪悔悛する聖ヒエロニムス≫
制作年不明 テンペラ、カンヴァス ウンブリア国立絵画館
5 ペルジーノ≪悔悛する聖ヒエロニムス≫
制作年不明 壁から剥がされカンヴァスに移されたフレスコ ウンブリア国立絵画館
本展は、地方色豊かなイタリア文化をひもとくルネサンス展の第二弾です。一昨年のプラートにつづき、今回は緑豊かなウンブリア州の古都ペルージャから、ペルジーノ(ペルージャの人)と呼ばれた画家ピエトロ・ヴァンヌッチ(1450頃~1523)をご紹介します。
開催期間
2007年4月21日(土)~7月1日(日)
開館時間
午前10時~午後6時(入館は5時30分まで)
※特別展は金曜日開館時間延長の場合があります。
休館日
月曜定休 ただし4月30日(月・祝)は開館
観覧料
一般1000(800)円
大学・高校生600(500)円
シルバー(65歳以上)800円
*中学生以下は無料
※( )内は前売りおよび20名以上の団体料金
★関連イベント
ギャラリートーク 学芸員が会場で作品の説明をします(当日自由参加)
・小・中学生と父母対象
5月26日(土) 午後1時30分~
6月9日(土) 午後1時30分~
・一般対象
6月2日(土) 午後1時30分~
6月15日(金) 午後6時30分~
損保ジャパン東郷青児美術館ホームページはこちら
[Art innレビュー]
絵画の宗教性と芸術性の狭間におけるペルジーノの偉業
ペルジーノは、ルネサンス期の巨匠、ダ・ヴィンチやミケランジェロやラファエロの一世代前に生きた芸術家だと位置づけられている。
レネサンスの前は美術史的には宗教絵画の時代だ。
その時代、絵画には、民衆の信仰心を惹起させるという目的があった。
実際、ルネサンス期以前の西洋宗教絵画を鑑賞してみれば、その素朴とも言える技法の中で、芸術性よりも宗教性が、観るものに直裁に伝わってくるはずだ。
当初、宗教絵画の制作に携わっていた絵師は、教会の僧侶たちだった。
僧侶たちの、絵画制作における創造衝動の核心は、もちろん宗教的な信仰心だった。
彼らに創造のインスピレーションを与えるのは、彼ら自身の信仰心から生まれる、あるいは信仰心が引き起こす、神の啓示または神から授けられる神聖な息吹だったのだ。
ところが教会権力の巨大化にともない、素朴な絵師であった僧侶たちはいなくなり、教会に雇われる専門の絵師たちが登場するようになる。
絵師たちはギルド(組合)を結成し、工房の中でたくさんの弟子たちを抱えながら、教会や富豪貴族たちの注文を引き受けるようになる。
そのような専門絵師たちの工房による制作システムが、見事に完成された時代がルネサンス期でもあった。
宗教絵画の時代の僧侶=絵師たちは絵画制作によって生活の糧を稼いでいたのではない。
しかしルネサンス期の絵師たちは、まさに自身の絵画技量によって、稼がなければならなかった。
そんな時代に、大きな工房を取り仕切りながら、多くの注文を引き受けて絵画を大量生産していたのが、
ペルジーノ
なのである。
損保ジャパン東郷青児美術館で今回展示されているペルジーノの作品をじっくりと観てみよう。
ルネサンス期の絵画に興味を持っている鑑賞者ならば、東京国立博物館で開催中の特別展「レオナルド・ダ・ヴィンチ ―天才の実像」の『受胎告知』も観るべきだ。
そうすると、ダ・ヴィンチとペルジーノの差異を明らかに感じとれるはずだ。
ペルジーノの絵画には、その時代以前の宗教絵画の名残が感じられる。
けれどもダ・ヴィンチの『受胎告知』にはそれがない。
確かにペルジーノもダ・ヴィンチも教会からの注文によって制作しているのではあるけれど、そしてどちらもキリスト教の聖書世界をモチーフにしているわけだが、しかし明らかに違うのだ。
ペルジーノの絵画に感じられる宗教絵画の名残には、信仰心を創造のインスピレーションにしていた絵師=僧侶たちと共通の精神を感じ取れる。
一方、ダ・ヴィンチの絵画からは、ルネサンス期以降に発展していく芸術衝動そのものとも言える創造力を感じ取れはしないだろうか。
ルネサンス期の創造衝動とは、よく知られているように、古代ギリシャ時代の芸術性の復興にあった。
ルネサンス期の絵師たちは皆、古代ギリシャの彫刻作品を研究し尽くしていた。
彼らが貪欲なまでに吸収しようとした古代ギリシャの創造精神とは、キリスト教の教会権力によって窮屈に呪縛されてしまっていた、人間精神そのものによる創造衝動だ。
つまり、信仰心によってインスパイアされる創造衝動ではなく、人間の精神そのものから産み出される芸術衝動を、ルネサンス期の作家たちは希求していたのである。
名声を得たペルジーノは教会の注文に応じて大量生産していた。
ペルジーノ自身も、ルネサンス期に開花した新たな芸術衝動を吸い取っていたはずである。
だが大量生産することによって、中世から続く宗教絵画精神から脱し切れなかったのだとも言える。
寡作であったダ・ヴィンチは、前時代の呪縛から逃れようと模索し、新たな時代の芸術衝動に純粋に呼応したからこそ寡作であった。
そしてダ・ヴィンチはペルジーノ以上に、後の時代の芸術家たちに多大な影響を与えることになった。
人類がピテカントロプスから人体を進化させてきたのと同様に、人類の文化精神も進化し続け、芸術衝動も進歩する。
ペルジーノとダ・ヴィンチの違いを感じ取ることによって、同じルネサンス期に生きた偉大なる二人の芸術精神の、決定的に異なる創造性を確認してみよう。
[text by Junichi Ishikawa]

