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 内覧会レポート!東京都美術館「フェルメール展 光の天才画家とデルフトの巨匠たち」

 2008年8月1日、東京都美術館で開催された、内覧会の模様です。

 光の天才画家、ヨハネス・フェルメール(1632-1675)。その独特の光の質感表現は、私たちにえもいわれぬ幸福感を与えてくれます。西洋美術史上、最も才能に溢れた画家と言っても過言ではないでしょう。
 また彼は謎のベールに包まれた画家でもあり、現存する作品はわずか36点しかありません。本展は、日本初公開5点を含む、過去最多の7点が来日。また、フェルメールが、同時期生涯を過ごしたオランダの小都市が育んだ美の潮流、デルフト・スタイルを確立した17世紀の画家たちの作品も併せて展示する、美術ファン必見の展覧会です。

会期:2008年8月2日(土)~12月14日(日)



 1650年以前、オランダの小都市デルフトは、退屈で保守的な街でした。地理的には恵まれた要所にあり、街としての存続は保たれていましたが、政治活動とは隔離され、商業的な成功には程遠く、街には素人画家や流行画家たちがいるに過ぎませんでした。
 ところが、突如、この街に前例の無いほど革新的な画家グループが登場します。彼らは、空間描写自然光の描写遠近法を用いて、かつて無いほど自然で、幻想的な絵を生み出したのです。

 デルフト・スタイルの隆盛は、1650年から1675年くらいまでの、わずか25年という短い期間でした。1675年にフェルメールが没するまでには、デルフト・スタイルの技法の担い手たちは、アムステルダムなど、より希望の持てそうな街へと移っていったのです。

 
 デルフト・スタイルは、当初、建築絵画からスタートしました。ヘラルド・ホックやエマニュエル・デ・ウィッテらの建築画家は、実在するデルフト教会の内部を巧みな遠近法を用いて描きました。
左の写真の絵は、ヤン・ファン・デル・ヘイデン《アウデ・デルフト運河と旧教会の眺望》1660年頃。ヤン・ファン・デル・ヘイデン(1637-1712)は、17世紀を代表する都市風景画家の一人です。また彼は消火活動にも興味があり、なんと消防ホースの発明もしました!細部まで、詳細に描き込まれている様子は、彼がテクノロジーにとても興味があったことの表れなのかもしれません。

 
建築絵画と現在のデルフトの街並み写真を並べて展示しています。正確な遠近法と見事な描写の様子がうかがえます。
左: ヤン・ファン・デル・ヘイデン《アウデ・デルフト運河から見た旧教会の眺望》1675年頃 との比較。
右: ヘンドリック・コルネリスゾーン・ファン・フリート《オルガン・ロフトの下から見たデルフト旧教会の内部》1662年頃 との比較。

 
左: デルフト・スタイルの主要画家、カレル・ファブリティウス(1622-1654)の登場です。左は《自画像》1647-1648年頃、右は《アブラハム・デ・ポッテルの肖像》1649年頃。ファブリティウスの名の由来は、ラテン語の「職人」"faber"から来ているそうです。
 彼は、レンブラントの最も才能のある弟子の一人でした。そして、1645年にレンブラントの工房を独立し、1950年からデルフトで画家として活躍しましたが、1654年、デルフトの4分の1を焼いた火薬庫の爆発により、彼の作品のほとんどと、彼自身の命を失いました。
右: 遠近法の名手でもあったファブリティウスの作品《楽器商のいるデルフトの眺望》1652年頃。彼は錯視的な効果を楽しむ為に、透視箱も制作しました。平面上ではものすごく湾曲して描かれた風景画を、内壁をカーブさせた木箱に入れて、一点の穴から片目をつぶって覗き込むと、現実さながらの世界が広がるというものです。会場には、それに近い仕掛けが用意されています。
※時期によっては調整のため展示されていない場合がございます。

 
 そして、ピーテル・デ・ホーホ(1629-1684)の登場です。彼は、楽しげに語り合う人々と、装飾的な室内を描き、母性と家庭愛の美を称える作品を多く制作しています。また、他のオランダ人画家同様、デ・ホーホの室内画には多くの暗喩が含まれています。彼は、リネン商人の助手としても活動しており、晩年は、アムステルダムの精神病院で亡くなったそうです。  

 
ここからようやくお待ちかね、フェルメールの登場です。
左: 手前の作品は、《マルタとマリアの家のキリスト》1655年頃。フェルメール初期の作品です。マルタとマリアの家を訪れたキリストの話に聞き入るマリア。その横で、もてなしの質素なパンなどを用意するマルタ。食事の準備はすべて自分がやっているのよ、と不平をこぼすマルタに、キリストは「マリアは良い方を選んだのだ。彼女からそれを取り上げてはいけない。」と諭す場面。この主題の絵において、マルタはあくまで脇役ですが、フェルメールの作品では、真ん中に位置しています。
 その奥は、《ディアナとニンフたち》 1655-1656年頃。フェルメール唯一の神話画です。三日月のついた髪飾りをした女神ディアナがニンフを従えて森の外れの岩に腰掛けて休んでいる場面が描かれています。ニンフはスポンジでディアナの足を洗っています。自分の涙でキリストの足を洗ったマグダラのアリアや、最後の晩餐でひざまずいて弟子たちの足を洗ったキリストの宗教的な重々しいテーマと関連付けられてきました。また、この絵の登場人物たちは一様にうつむき加減で、内省的な雰囲気です。
右: 《小路》1658-1660年頃。小さな作品ですが、とても生き生きと、オランダの都市景観を描いた傑作です。フェルメールの都市景観画は、この作品と、《デルフトの眺望》の2点しか現存していません。この破風づくりのレンガの建物は、どこで描かれたのかは、はっきりと特定されていませんが、現実の建物に、創造的な部分が付け加えられているといいます。そして構図は、人の配置、姿勢、空間の抜けなどを丹念に考慮し、元あった人物を塗りつぶすなど、徹底的に吟味された傑作です。

 
左: 《ワイングラスを持つ娘》1659-1660年頃。「陽気な仲間たち」を描いたうちの一つ。鮮やかな色のドレスを身にまとった若い女性が片手にワイングラスを持ってこちらに笑みを向けています。すると、その女性に言い寄る男性が。光の差し込む窓には、ステンドグラスがはめ込まれ、その模様は、節制を意味する、手綱を持つ女性。この絵は、飲酒や色恋沙汰への戒めとして描かれたのではないか、といわれています。
右: 《手紙を書く婦人と召使い》1670年頃。大きな窓から差し込む光。その光の下で、女主人は熱心に手紙を書いています。それとは対照的に、手紙が書き終えるのを待ちながら、ぼんやりと窓の外に眼をやる女。安定した構図と共に、光に照らされ、神々しく輝く白い頭巾や袖、襟、真珠のイヤリング、光をたっぷり含むカーテンの描写が、得もいわれぬ幸福感をもたらします。

 
左: 《ヴァージナルの前に座る若い女性》1670年頃。とても小さな作品です。この写真は解説ボードです。フェルメールの作品にはそれぞれに、このようなボードがついているので、より深く知りたい方にはオススメ。
 この絵は、個人コレクションとして、フェルメール最後の作品で、また、フェルメール作であると分かるまで、長い調査期間を要しました。決め手は、《レースを編む女》と同じ、比較的粗めなキャンバス地に描かれていること、地塗りの方法がフェルメールの手法と一致すること、当時かなり珍しい高価な天然ウルトラマリンを使用していることなどが上げられます。
 また、本展では、《リュートを調弦する女》1663-1665年頃も展示されています。フェルメールは、女性の私的な場面をよく描きました。
右: フェルメール作品実寸大パネルです。

図録、日本語版は2500円。

フェルメール作品、私は今回初めて眼にしましたが、その光の豊かさ、そしてやわらかさに、とても幸福感を感じました。とにもかくにも、観る人を幸せな気持ちにさせる絵、という感想です。難しいことは抜きにして、あなたもぜひ、この幸福感を味わってみてください。


[ text by Art inn編集部] 
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