家庭用ハンディカメラの登場により、専門家でなくても気軽に映像作品が撮れるようになった60~70年代。この時代のアメリカ、ヨーロッパ、日本の映像作品の傑作約50点が出揃う本展。ヴィト・アコンチ、アンディ・ウォーホル、リチャード・セラ、ブルース・ナウマンなど、カルト的人気を誇る作家の作品をはじめ、60~70年代の流れを汲む現代作家の作品も展示。
また、本展の趣旨として、映像以外のメディアでも制作をしている作家に焦点を合わせていることから、ヴィデオ・アートの父、ナム・ジュン・パイクの作品は有りませんが、どうぞご理解を!
◎会期:2009年3月31日(火)~6月7日(日)
本展は5章構成。以下、気になった作品をピックアップ♪
CHAPTER 01 鏡と反映
ヴィト・アコンチ《こじ開け》 1971
1971年、ニューヨーク大学でのパフォーマンスの様子を撮影したもの。
アコンチが、キャシー・デロンという名の女性の眼を無理やりこじ開けようとしています。身をくねらせながら必死に抵抗する女性と、力ずくで目的を達成しようとする男性。いささか暴力的に映るその様子は、同時にエロティックな印象すらも与えます。
デロンは目を閉じることで、自身の内にこもり、一方アコンチは、彼女の目を開けさせ外側の世界へ連れ出そうとしています。彼女は一度目を開けたら、「見る/見られる」ことにより、他者との関係性が生じ、私的領域の再定義が迫られます。この「見る/見られる」という関係性から、アコンチの主要テーマである公私の境界の生成過程が観察できます。
CHAPTER 02 芸術の非物質化
マーサ・ロスラー《キッチンの記号論》 1975
エプロン姿でキッチンに立つロスラー。彼女はキッチンの道具類をアルファベット順にカメラに向かって説明しています。 おもむろに「エプロン(apron)」から始まり、「ボウル(bowl)」、「肉切り包丁(chopper)」、「皿(dish)」、「泡だて器(egg beater)」と続き、用途を示す動作をしますが、本来の所作からは外れ、非常に暴力的な様相を呈します。
60~70年代のヴィデオアートの隆盛の影には、マッチョな男性が主流であった物質的な彫刻や絵画の世界に対し、複数の女性作家がフェミニズムの観点から、社会における女性イメージの流通にヴィデオアートを手掛けた経緯があります。従順な女性の場とされるキッチンに、実は高い殺傷能力を持つ武器が満載であるという事実が明らかに…。
CHAPTER 03 身体/物体/媒体
野村仁《カメラを手に持ち腕を回す:人物、風景》 1972
校庭のような広い場所で、右手にフィルムカメラを持ち、腕をぐるぐると回転し続ける野村。単調で何も起こらないことに多少飽きかけた頃、がらりと画面は別世界に切り替わります。そこから、右手のカメラの映した世界の映像が展開し始めます。天地がぐるりと揺らぎ、遠くの建物も人も転回し、酔いのような感覚に襲われます。
ここで、野村の身体の「運動」によって測定された空間は映像の「質」へと「転記」され、 またそれは身体自体の「測定」ともなるのです。
CHAPTER 04 フレームの拡張
ビル・ヴィオラ《映りこむ池》 1977~79
今や、ヴィデオアートの第一人者とも言うべきヴィオラの超有名な作品。
森の中の池に飛び込む男(ビル・ヴィオラ)の様子を捉えた映像です。時空の捻れたような奇妙な場面が展開します。それは、3つの固定カメラによる映像が、時間差で編集され、飛び込む男、池の反映、男のいない森と池だけの映像が、巧みに合成され、「現実の時間、静止、時間の消滅」の異なる3つの感覚に分解され、「時間を素材に彫刻を作る」ように再構成されているからです。
またヴィオラは、水から生まれ、固体となり、再び水に帰って行く様子を、生と死のサイクルを考察するものとしています。
CHAPTER 05 サイト
フランシス・アリス《信念が山を動かすとき》 2000~02
ベルギー生まれでチリで活動する、現代美術界で大人気の作家アリスの作品です。
ペルーの首都リマ郊外にある巨大な砂丘を舞台に、500人ものボランティアが、お揃いのTシャツを着て、一列に並び、シャベルで一斉に砂を動かします。移民や難民が集うこの街で、信念あるものたちが、抽象的未来の希望へと一石を投じる姿が見て取れます。アクションを終えた人々は、一堂喚起の雄たけびを上げます。
この作品はランド・アート(アースワーク)の一種ですが、辺境の地にモニュメンタルに作られるそれらと一線を画すのは、砂を移動する行為がその後に何の痕跡も残さないこと、プロセス自体が芸術になることにあります。
そもそもランド・アートとは、美術館などの箱物から飛び出し、外の世界で展開するアートとして出発しますが、その特性上、人目に触れる機会が少ないため、制作の模様を映像等で記録し、結局はまたもとの箱の中で展示することになってしまうというのも皮肉に感じられます。
ヴィデオというメディアを通して、作家たちがリアルタイムに自身の行為を目撃し、記録していくことに、どれほど興味を掻き立てられたかが伺える展覧会でした。
物質主義に限界を感じ、反物質的な作品が隆盛するも、再び物質の象徴的である身体性へ回帰していくさまなど、一連の流れに沿って観て行く事ができるのが良かったです。
そして本展、まともに観るとなんと約13時間も掛かるとのこと。時間にたっぷり余裕を持ってお出かけください!

3月30日の皇居のお堀の桜は、枝垂桜から徐々に咲いていっているようです。
まだまだ寒いけど、着実に春はやって来ていますよ!
[ text by Art inn編集部]
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