
[ text and photo by Art inn編集部] 2009/12/8 UP
本展はタイトル通り、医学と芸術に関係のある作品を集めたとてもユニークな展覧会。イギリスで医学や薬学の分野において、様々な助成を行っているウェルカム財団の歴史的資料から現代美術まで幅広い貴重なコレクションとともに、日本の古美術から最先端医療までも併せてご紹介。医学と芸術の、意外で深~い繋がりが見えてきます。
◎会期:2009年11 月28 日(土)~ 2010 年2 月28 日(日) 会期中無休
そもそも医学と芸術の関係とは、写真が無かった時代に解剖学者が人体を解剖した際、その様子を記録として描きとめるのに画家に描いてもらったことから始まったのだそう。
会場には、いくつもの人体解剖図が展示されていますが、中でも注目は、ジャック=ファビアン・ゴーティエ・ダゴティの妊婦解剖図(1764-1765)。当時、女性の解剖図を描く際はほぼ妊婦の状態で描かれていたのだとか。
ダゴティの解剖図に描かれた女性たちは、いきいきとした生きている状態で表され、尚且つどこか恍惚とした表情を見せ色香を感じさせます。当時ヨーロッパの貴族たちは「驚異の部屋」という世界中の珍品・貴品を集めた部屋作りに熱心になっていましたが、解剖図はこうした貴族たちにも愛好されていたようです。
(↑上の写真)
また本展の目玉として、ダ・ヴィンチが3点出品されています。エリザベス女王所蔵のロイヤル・コレクションからお借りしてきたもので、精緻な解剖図の素描の脇に、あの鏡文字でメモが添えられています。彼こそまさに医学と芸術の橋渡し役なのでしょう。

日本からは円山応挙や河鍋暁斎ら巨匠も展示。中でも、暁斎の描く骸骨画は必見です。宴席で皆の前で即興で描かれたこの作品は席画と呼ばれ、スピード感溢れる筆致が爽快です。
専門家の意見によると、こちらの骸骨画、かなり正確に骨格が捉えられているとのこと。しかも同じような骸骨画が二枚あるのですが、それぞれが男・女を表しています。どうやって見分けるのか?というと、なんと画面隅に、精子と卵子が描かれているのです。当時、既にその辺りの見解が成されていたことに驚かされます。

四肢を失った人々にとって、大きな助けとなるのが、義手や義足、義眼などの代替品です。本展では歴史的価値のあるものから最先端のものまで見ることが出来ます。
最先端技術を駆使したものとして、本田技術研究所の「体重支持型歩行アシスト(試作機)」は画期的です。歩行や階段の昇降時に、膝や脚、関節にかかる負担を軽減する機器でなんとも自然で滑らかな動きをします。本品は、「歩いて移動する喜び」を念頭に開発され、それはすなわち「生きる喜び」そのものとなるのです。

現代美術の分野からも続々面白い作品が登場します。デミアン・ハーストやパトリシア・ピッチニーニ、マーク・クインら、技術の進んだ現代に警鐘を鳴らすような作品も。
スージー・フリーマン&リズ・リーの《記念日》は、一見可愛らしいピンク色のウエディングドレスですが、意外なメッセージを持っています。スカート部分に何やら無数の錠剤が刺繍のように埋め込まれており…。
なんとこの錠剤の正体は、女性が25年間飲み続けるのに必要な量の経口避妊薬なのです。結婚のいわゆる意味と避妊薬という相反するものが提示され、女性は自身の人生をコントロールできるという意志の重要さを示すかのようです。
医学と芸術のコラボレーションの背景を辿っていく中で、互いを必要としていることがとても印象に残りました。例えば義足1本にしても、技術的なことだけでなく、見栄えの良さも要求されるからです。見栄えの良いものは使い勝手も良いのだと聞いたことがあります。常に自分の体の一部を肩代わりするもの、身に着けるものは美しい方がいいし、心地良い方がいいのです。
また両者に共通することは、人間そのものを知りたいという根源的な欲求に根ざしているのかなと思いました。
そして、医学的モチーフを扱う現代美術において、医学技術の発達は、人類に不可能を可能にしてくれるような期待を持たせてくれますが、その反面あらゆる問題も含むということを作家たちは美術を通して見せてくれます。
正直、見ていて切なくなる作品もありましたが、美術の視点から医学を垣間見る稀有な展覧会です。この機会にぜひ皆様も脚をお運びください!

同時開催の「MAMプロジェクト010:テレルヴォ・カルレイネン+オリヴァー・コフタ・カルレイネン」展も拝見。
各国のお国柄を顕著に表す、ペーソスを含んだ可愛らしい不平・不満を軽妙洒脱なメロディ・ラインに乗せて、軽やかに合唱する映像作品。こちらyoutubeでも各国の映像を見ることができます。
不満を言っているのに、なぜか皆楽しそう。見ているこちらまで笑顔になってしまいます。不平を歌い上げることでカタルシスになるのでしょう。ふと楽しく歌うことで苦痛を軽減させる労働歌を思い出しました。
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●Art inn注目の展覧会情報:森美術館「医学と芸術:生命(いのち)と愛の未来を探る ~ダ・ヴィンチ、応挙、デミアン・ハースト」はコチラ
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●Art inn編集部日記:森美術館「医学と芸術:生命(いのち)と愛の未来を探る ~ダ・ヴィンチ、応挙、デミアン・ハースト」はコチラ

