
[ text and photo by Art inn編集部] 2010/3/10 UP
1920年代からヨーロッパで活動し、アール・デコ時代を代表する女流画家として知られるタマラ・ド・レンピッカ(1898~1980年)。本展は、スタイリッシュで華やかに、そして時代の波に翻弄されながらも、本能のままに時代を駆け抜けた一人の女性の生涯を辿る展覧会です。
◎会期:2010年3月6日(土)~5月9日(日)
展示会場に入るとまず眼に飛び込んで来るのはレンピッカの大きなモノクロームのポートレート。その女優ばりのクールでゴージャスな美貌を自身もよく知り尽くしていたそうで、自分の美しさをカタチに留めておく為に、モデルの宣材写真のようなポートレートを数多く撮影したそうです。(会場内にて、様々なバリエーションがお楽しみいただけます。)
華やかな社交界を愛し、男女問わず自由な恋愛を大いに楽しんだレンピッカですが、簡単に彼女の生涯を追ってみます。
レンピッカはワルシャワの良家に生まれ、その後ロシアで思春期を過ごします。18歳で結婚しロシア革命を機にパリへと亡命しますが、当時の夫がまったく働かなくなった為、一念発起し、得意だった肖像画を描いてお金を得ることを始めます。
1920~30年代のパリは狂乱の時代といわれ、その独特の画風と美貌で、たちまち彼女は一世を風靡。画家としてはこの頃が絶頂期であったと言われています。
やがて最初の夫と離婚し、第二次世界大戦の砲火を逃れるように再婚相手の富豪と共にアメリカに亡命。その後、画家としての彼女は忘れ去られたこともありましたが、晩年再評価され、メキシコにて82歳の生涯を閉じました。

差し迫った理由から、本格的に絵筆を取り始めたレンピッカですが、彼女の天賦の才能は、肖像画を描くことで完全に開花しました。彼女の肖像画でとりわけ特徴的なのは、画面の端まではみ出さんばかりに配された人物の構図、金属的な冷たい質感、そして強靭なオーラを放つモデルの圧倒的な存在感です。
パリ時代のレンピッカの絵のモデルは、社交界の面々を初め、亡命貴族、夫や愛娘キゼット、はたまた彼女の恋人である美しき女性たち。概ね男性は暗く沈鬱に描かれ、女性はたとえ実の娘であれ、豊かで官能的に描かれてます。それらの肖像画は、モデルの本質を鋭く捉えていたそうです。

「私の作品はどれも自画像なのです。」とレンピッカは言います。カラー(花)を描いても静物を描いても、誰かを描いても、彼女は対象に自己を投影し、鏡で自分を見るようにキャンバスに向かったのです。
バイタリティに溢れ、新しいことに常に敏感で社交に忙しく、また当時珍しかった女性ドライバーでもあったレンピッカでしたが、やがて危機が訪れます。

フランスに押し寄せた世界恐慌が原因で肖像画の注文が途絶え、レンピッカは鬱病に苦しめられることになるのです。この苦境の時代、彼女の制作テーマはモダンなものからより深刻なものへと変化していきます。
難民など政治的なもの、魂の救いを求めるがごとく宗教的なものを描いたり、時代の危機と共に彼女自身の危機が二重に影を落とし、見るからに画面が暗く重くなっていくのが分かります。
その後、再婚相手のクフナー男爵とアメリカに渡ってから、彼女の作品はどこか物足りない印象になっていきます。
富豪と結婚したことでお金の心配が無くなり、持ち前のハングリーさが無くなってしまったからです。
また当時の美術界では、もはや具象ではなく、抽象が流行り、レンピッカの画風は時代とマッチしなくなっていたのです。
相変わらず肖像画の注文も無く、彼女はそれまでの自分の画風を変えようと古典絵画や流行の画家に学んだりと試行錯誤を繰り返し、ずいぶん苦悩したようです。
しかし復活の時がやって来ます。ブロンデル夫妻らをはじめとするパリの若手画商のグループが彼女の作品を再発見し、1972年、パリの画廊にて個展を開催し、成功したのです。やがて1980年、レンピッカはメキシコで逝去しますが、死ぬまで絵筆を取り続けました。遺灰は遺言により、親友の芸術家の手によってメキシコの活火山の火口付近に撒かれたそうです。

レンピッカの画業と生涯を通して、時に狂しいほど己の欲望に貪欲で、反面とても傷つきやすく繊細な一面を見受けることができました。
彼女が20代後半から30代後半にかけての約10年間、もっとも油が乗り、凝縮された時代に描いた、有る意味”神懸かり”とも言えるような鬼気迫るものを孕む官能的な作品群は、しっかりと私の瞼に焼きつきました。
マドンナやジャック・ニコルソンら、名立たる世界のセレブがコレクターとして有名ですが、レンピッカの作品は、彼らにとって豊饒なるインスピレーションを与えてくるのでしょう。
個人的には、しばらくの間、レンピッカの描く世界の夢をみて眠りたいくらいです。魅惑的な登場人物たちを眺めながら。
【おまけ】
本展では、桂由美さんがレンピッカのカラーの絵からインスピレーション得てデザインしたドレスが展示されています。内覧時には、音声ガイドのナレーションを担当された夏木マリさんが、このドレスをお召しになってご登場。お美しくかつ妖艶で、とてもお似合いでした!
※Bunkamuraザ・ミュージアムの許可を得て会場撮影をしています。
※無断転用は固くお断りします。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
●Art inn注目の展覧会情報:Bunkamuraザ・ミュージアム「美しき挑発 レンピッカ展 本能に生きた伝説の画家」はコチラ

