
[ text and photo by Art inn編集部] 2009/4/28 UP
会 期
2010年4月28日(水)~6月21日(月)
本展は、都市に生きた陶芸家と呼ばれるルーシー・リー没後最大級の回顧展。既に巷でポスターやチラシをご覧になり、気になっていらした方も少なくないかと思います。
華奢なフォルムと鮮やかな色味が印象的なルーシー・リーの器は、シンプルで程よく洗練され、日本人の好みのツボにも合いそうです。
以下、展覧会の模様をざっくりとご紹介して行きます。
Ⅰ.初期―ウィーン時代 1921-38年
ルーシーはユダヤ人の裕福な家庭に生まれ、ウィーン工房の高価な製品に接しながら育ちました。やがて芸術に関心のある兄パウルの影響によりウィーン工業美術学校へと進み陶芸家を志します。
この頃世間はアール・デコの全盛期で、型どおりの幾何学模様やモダンデザインが主流でしたが、ルーシーは一人わが道を行きます。
会場には当時ルーシーが焼いていた、一見和食器にも見えるような無骨でザラついた渋い色味の陶器も展示されていますが、私たちが事前にポスター等で認識していた彼女の作風とは大きくかけ離れています。
ルーシーは装飾的な陶芸作品には興味を持たず、純粋造形としての陶芸を目指していたそうです。
また医師であった父の影響もあり、科学的実験精神にも溢れ、釉薬の研究にも没頭していました。科学と芸術の最先端に触れる機会に恵まれる中、ルーシーはそれぞれの資質を融合し、遺憾なく発揮していくこととなるのです。
Ⅱ.形成期―ロンドン時代
美術学校を卒業してすぐ、24歳でハンス・リーと結婚したルーシーはウィーンに新居と釜を構え制作を始めますが、1938年36歳の時、ナチスの迫害を逃れ、夫と共にイギリスへと渡ります。
2年後、離婚したルーシーは仕事探しのため、当時イギリス陶芸界の重鎮であるバーナード・リーチに作品を批評(高台が小さいのでは?等)されたことがきっかけとなり、ルーシーの作風は変化していきます。自分のスタイルを模索する中で作風が変化したのち、ルーシーはようやくリーチに認められることとなります。
香港生まれで日本育ちのリーチから質実剛健のガッチリしたフォルムを、またバウハウスのモダンデザインや、中国・ギリシャの古の陶器から得たインスピレーションがミックスしていきます。

※右手の写真:ボタン製作のスタッフとともに、向かって左端がハンス・コパー、その隣がルーシー、1946-50年頃(本展図録キャプションより)
やがて、生活の為に始めたボタン製作の助手であるハンス・コパーとの共作が始まります。
コパーとは14年間作業場を共にすることになりましたが、ルーシーは彼から様々な陶芸の知識を吸収していきます。ルーシーがデザインし、コパーが制作することも多かったようです。
本展では照明を落とした小空間に、ルーシーがデザインしたボタンの数々がまるで宝石のように展示されています。少し大振りでカラフル、そこはかとなく品の良い陶器のボタンはとてもキュートです。
会場にはところどころ、自分にだけに分かる暗号のような文字や化学式、スケッチなどで構成された”釉薬ノート”が展示されています。ルーシーの熱心な研究過程を垣間見ることの出来るこれらのノートからは、彼女の生きいきとした息遣いが伝わってくるようです。
また映像コーナーでは、イギリスのTV番組がルーシーの工房を取材した様子が流れています。
個人的に少々驚いたというか、微笑ましかったのは、温度調節しやすい電気釜を愛用していたルーシーが焼きあがった作品を両手で取り出すべく、おもむろに両足をブラ~ンと床から離し、日本の浴槽よりも深さのありそうな釜の縁から、腹一点でバランスを取りつつ、中に頭を突っ込んで作業していたこと。
取材当時、結構なお年だったと思いますが、ヒヤヒヤしつつも元気だな~と。笑
Ⅲ.円熟期
ルーシーの代表的な技法といえば、ピンクの釉薬を使用したものや、細い線模様でしょう。ツヤ消しのピンク色は、まるでストロベリーアイスクリームのような柔らかな発色で、思わず美味しそう!と思ってしまいました。ピンク等の色を初め、肌合いの研究の様子は”釉薬ノート”にも記録されています。
細い線模様は”掻き落とし”と呼ばれる伝統的な技法で、青銅器時代の鳥の骨で引っ掻いた模様に着想を得ているそうですが、ルーシーの場合それらの線は、物理学で言うところの線スペクトルの象徴的表現であり、また揺らぎのある口作りは、電子の波動性を表しているのだそうです。
というのも、ルーシーの元夫ハンス・リーの兄で、夭折した物理学者エルンスト・リーへのオマージュであるとの見方もあるようです。彼女は10代の頃エルンストと知り合い、物理学を通して触発され、生涯敬愛していました。
1995年、93歳でルーシーは生涯を終えます。
後年、ルーシーの制作スタイルは確立し、昔の作品をリバイバルすることも難なくこなしたといいます。
ろくろから立ち上がる粘土が形成する美を生涯追求したルーシーは職人気質と研究者気質を兼ね備えたアーティストでした。
陶芸の師や古の陶器、作陶仲間らから少なからず影響を受けてきたとは思いますが、ルーシーの作品にはそれらの影はあからさまには見て取れず、あくまでルーシー・リーの作品であると言えましょう。
個人的意見ですが、彼女の制作の根本には、まず物理学などサイエンスへの飽くなき憧憬があり、その上に表現方法として感覚的に好みな陶器作りがあったのではないかと思うのです。頭と手を繋ぐように…。
★おまけ★
ショップでは本物の陶器を初め、可愛らしいミニチュアの器風?ペンダントや布バッグなど、センスの良いナチュラル系雑貨が並び、展覧会が2度楽しめますよ♪
ちなみに音声ガイドは女優の樋口可南子さん、低音で静かに響く声がすっと胸に沁み入ります。
※国立新美術館の許可を得て会場撮影をしています。
※無断転用は固くお断りします。
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