トップ展覧会レポート>国立新美術館「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」
 国立新美術館「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」

国立新美術館「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」
[ text and photo by Art inn編集部]
2011/6/14 UP


会 期
2011年6月8日(水)~9月5日(月)


印象派とポスト印象派の優品を紹介する「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」が国立新美術館で開催中です。
同ギャラリーは全米でも比類なきコレクションとして親しまれています。
本展では、開館70周年に伴い西館を大規模改修するのを機に、12万点の所蔵作品の中から、83点を出品。うち24点は「秀作中の秀作」と名高いポール・メロン・コレクションに属します。
本展は4章構成となっていますので、順に追って行こうと思います。


国立新美術館「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」
1 印象派登場まで

左右とも エドゥアール・マネ 
左:《オペラ座の仮面舞踏会》1873年
右:《鉄道》1873年

ヨーロッパでは長らく、絵画の目的といえば、聖書や神話を視覚的に表現することでしたが、19世紀に入り自然の風景を写実的に描こうとする動きが登場します。

やがて産業革命によって混乱したパリを嫌い、自然の中に人間本来の居場所を求めたコロー、デュプレらの画家たちによって、「バルビゾン派」が派生します。

本展では、「写実主義」を唱えたクールベの作品も展示されていますが、自然の光の表現に関心を寄せた点は、印象派の先駆的存在となりました。

また、本展メインビジュアルともなったマネの作品は、ヨーロッパの過去の巨匠たちにも影響を受けつつも、平板な空間表現の大胆さが、印象派の画家たちに影響を与えたとのこと。

国立新美術館「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」
2 印象派

左右とも クロード・モネ 
左:《日傘の女性、モネ夫人と息子》1875年
右:《ヴェトゥイユの画家の庭》1880年

1874年パリで、モネ、ルノワール、ピサロらによるグループ展が開かれました。
そこに出品されたモネの《印象、日の出》のタイトルから彼らの作品を酷評した批評家によって名付けられたのが「印象派」というのは有名なお話。

チューブ入りの絵具が普及し屋外での制作が楽になったこともあり、印象派の画家たちは、積極的に屋外出て、光の移ろいゆく様を表現しようとしました。
またその頃、写真も発明され、画家たちは写真にはできない絵画ならではの表現を模索していったのです。

国立新美術館「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」
左:エドガー・ドガ《アイロンをかける女性》1876年頃から着手、1887年頃完成

印象派の画家たちのモチーフは、自然だけではありませんでした。
印象派が登場した19世紀後半は、産業社会が確立し、セーヌ県知事オスマンによって大規模な都市改造がなされます。
変わりゆく都市の風景やそこで生活する人々の姿もまた、印象派のモチーフとなりました。

国立新美術館「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」
左:ベルト・モリゾ《姉妹》1869年

マネのモデルとしても有名なベルト・モリゾは印象派展に参加した画家でもありました。(マネがベルト・モリゾを描いた黒のリトグラフは、この後の第3章で展示されています。)

この絵に描かれている瓜二つな姉妹の姿は、ベルト・モリゾと姉エドマであると言われています。
ブルジョワ上流階級の家に生まれた彼女たちは、ふたりとも画家を目指していましたが、姉は結婚を機に画家を諦めます。並々ならない姉妹の親密な雰囲気が漂う一枚です。

国立新美術館「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」
3点とも ピエール=オーギュスト・ルノワール
左:《アンリオ夫人》1876年
中:《踊り子》1874年
右:《モネ夫人とその息子》1874年

ルノワールにはお気に入りのモデルがいました。それは、《踊り子》や《アンリオ夫人》など11点のモデルであるアンリエット・アンリオです。

貧しい出自のアンリエットは、当時残された写真から、平凡な顔立ちであったとされますが、ルノワールは独自に補正を駆使し、天使のような愛らしい姿に描き上げたのです。

国立新美術館「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」
3点とも メアリー・カサット
左:《浜辺で遊ぶ子どもたち》1884年
中:《麦わら帽子の子ども》1886年
右:《青いひじ掛け椅子の少女》1878年

メアリー・カサットは母や子を主題とする絵が印象的な画家です。
アメリカの裕福な家に生まれた彼女は、少女時代をヨーロッパで育ち、のちに絵画を学びます。
やがてドガに誘われ印象派に参加。
アメリカのコレクターたちに、印象派の作品を集めるよう呼びかけたのは彼女の功績です。

国立新美術館「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」
3 紙の上の印象派

左右とも メアリー・カサット
左:《入浴》1890-1891年
右:《果物狩り》1893年
 
本展では、印象派、ポスト印象派の画家たちの手がけた紙を支持体とした作品もご紹介しています。
当時は、油絵とは違う魅力を持つ版画が隆盛した時代でもあり、エッチングやリトグラフにも画家たちは盛んに取り組みました。こちらでは2章で登場したメアリー・カサットの版画も展示されています。日本の浮世絵に大きく影響を受けた表現が観られます。

国立新美術館「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」
4 ポスト印象派以降

左右とも ポール・セザンヌ
左:《川辺》1895年頃
右:《水辺にて》1890年頃

最後の章は、セザンヌやゴーギャン、ゴッホ、スーラ等、ポスト印象派の画家たちをご紹介しています。

印象派の描いた光の表現に魅了された彼らですが、鮮やかな色遣い、絵具の厚塗り、筆触の強調といった特徴は受け継ぐも、そこから各々独自の発展を遂げます。


セザンヌは、単純化した形態に方向性を持たせたタッチでより堅牢な画面を構成しました。
またスーラは、印象派より科学的な手法に基づき、「点描法」による画面作りを編み出しました。

----------------------------------
本展は、本場ワシントン・ナショナル・ギャラリー(NGA)の展示室さながらの会場構成となっており、一点ごとの間隔がゆったりと展示されているので、優雅な気持ちで鑑賞することができました。

日本初公開を印象派から23点、また素描、水彩、版画類を合わせると計27点にも及ぶ、めったに公開されることのない貴重なコレクション、ぜひこの機会にご覧ください。


国立新美術館の許可を得て会場撮影をしています。
※無断転用は固くお断りします。

公式サイトはコチラ

Art inn関連記事
Art inn最新展覧会情報:国立新美術館「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」はコチラ