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 原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」

原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」
[ text and photo by 鈴木正人]
2012/1/18 UP

会 期
2012 年1 月7 日(土)~3 月11 日(日)


今、原美術館で開催されている「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」展のチラシには、ガラスの器に色とりどりのオブジェが浮かんだ作品が並んでいる。
透き通ったガラスは移ろう光を捉え、限りなくロマンチックだが、器やオブジェの曲線が外界の歪みを反映しているようにも見える。



原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」

 今回の展示は、パリのポンピドゥーセンターで記録的人数を動員したジャン=ミシェル オトニエルの回顧展を、原美術館の空間で再構成するものである。東日本大震災により一時は開催を危ぶまれたそうだが、作家であるオトニエル氏や、フランス大使館の努力で実現したとのことだ。
 以下、展示の内容を順に追って見ていくこととしよう。


原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」

 

 一階は比較的新しい作品が展示されている。
  ギャラリーⅠの「秘密の箱」は、他人が見ても価値が分からないが、持ち主が見ると大切な宝物が詰まっていることを予感させる。


原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」


 また「私のベッド」は、眠りに就いた者が、そのベッドから降りると忘れてしまうような、脆く美しい夢を約束するかのようだ。
  眠っている時の無意識と、ガラスのつかみどころのなさは、よく見ようとして目を凝らすと、かえって見えなくなってしまうという点でよく似ている。


原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」


 ギャラリーⅡに入ると、ずらりと並んだ透明の瓶が目につく。
  こちらはチラシにも記載されている作品「涙」で、近づいて見ると自分の顔が映り込み、瓶の中に閉じ込められているような感覚に陥る。
  「涙」はオトニエル氏が今まで制作した作品が小さくなって浮いているそうで、そこにはオトニエル氏が作品に投入した時間が蓄積されているのかもしれない。


原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」


 サンルームへ行くと、室内の作品と裏庭の作品が同時に見えるようになっている。
  ガラスたちは室内と室外で相互に距離をとりつつも、調和やリズムなどのほか、関係性を持続させることによる束縛なども感じさせる。
  これらの作品を通し、室内と屋外の空気の質の違い、植物たちの醸す雰囲気などにも気づかされる。
  また、作品を鑑賞する時間帯によっても印象が全く異なってくるのだろう。


原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」


 二階は、オトニエル氏がガラスではなく、硫黄や蜜蝋などを用いて制作していた少し昔の時代の作品と、新しい作品が展示してある。


原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」


 「神父のローブ」と「黒は美しい」は二階廊下の同じ空間にあり、二つは年代が異なる作品だが、「黒は美しい」は「神父のローブ」の持ち主が天空の階段から流れ落とした数珠のようにも見え、連鎖的な要素を見ることもできるだろう。


原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」


 硫黄や蜜蝋の作品が再現しているのは人体の一部に見える。
  オトニエル氏にとって「失われた体」というモチーフは重要なものとのことで、硫黄や蜜蝋の人肌に似た質感が、どこか体温を感じさせる空間で主体の不在を強調していた。


原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」


 ギャラリーⅤにある「ラカンの結び目」「ラカンの大きな結び目」は、鏡面ガラスが使われている。
  これらの作品は、他のガラス作品が持つ子宮のような内包性と温かみをさほど感じさせず、幾何学的でメタリックな印象を放つ。


原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」


 複数の円が絡み合う姿はさながらメビウスの輪のようで、冷たいエネルギーが切れ目なく循環している様子にも見える。


原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」


 一階のホールは、子供向けのワークショップ「ふしぎな現実」を行う空間になっている。
  アトリエにある小さな机と椅子で子供たちはデッサンや塗り絵、ドローイングを行うことができる。


原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」


 また奥にある画面にピクトグラムをかざすと、オトニエル氏の作品が3Dで浮かび上がり、子供たちはオトニエル氏の絵の世界に入り込んだような体験ができる。


原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」


 オトニエル氏は、子供の頃に美術館へ行き、感動したためにアーティストになったそうだ。このワークショップのプロジェクトは、オトニエル氏の、子供たちにアートによる感動を体験してほしいという願いから生まれた。非常に生産的で価値ある試みだと思う。


原美術館「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」


 硫黄や蜜蝋、ガラスなど、可変的で流動性のある素材を使った作品には、一つ一つに作者の触感と、記憶のかけらを感じた。
  また、特に近年のガラスを使った作品には、夢や幻想性という要素も加わっているように思う。
  多くの人は、子供時代に、丸みを帯びて透き通ったガラスが持つ世界、例えばペーパーウェイトやスノードームのミクロコスモスに魅了された経験があるだろう。
  私の過去の記憶で言えば、ラムネの瓶に入ったビー玉がたまらなく魅力的に感じたことがある。
  青緑色の厚ぼったい瓶の中で揺らめく小さな球体は、私を拒絶しているようにも見えたし、球体自身が瓶の中に閉じ込められているようにも見えた。
  オトニエル氏の作品は、そうした幼い日に感じた目の眩むような煌めきと、手の届かない儚さをはらんでいる。
  原美術館の空間全体に溢れているオトニエル氏の魔法は、子供から大人まで、幅広い年代の感受性に強く響きわたることだろう。


※無断転用は固くお断りします。

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