マグリットだけじゃない!ベルギーの芸術遺産に注目
ヨーロッパの芸術といえば、真っ先にフランスやドイツ、イギリスなどが浮かぶ。ベルギーは油彩画の発祥地でありながら、その重要性にも関わらず日本ではあまり脚光を浴びていない。そう思うと、ベルギー王立美術館所蔵の名品が一堂に会した本展が開催されるのは実に喜ばしいし、またこうした機会が今後いつ訪れるかを思うと見逃せないのはいうまでもない。
ヤーコプ・ヨルダーンス《飲む王様》©KMSKB-MRBAB
ベルギーの芸術家としてマグリットなどは世界的に知られているが、彼とベルギー美術全体を結びつけるのはいささか無謀である。本展では16世紀後半~20世紀前半のおよそ400年にわたる名品の数々を年代順に展示。マグリットへ至るベルギー芸術の歴史が深く理解できる演出は、美術展でありながら、歴史エンタテインメントの側面も表現しており、観る者を多角的に刺激してくれる、まさに極上の美術展である。
◆あまり知られていない事実、ベルギーは油彩画発祥の地である
ヴァレリウス・ド・サーデレール《フランドルの冬》1927年©KMSKB-MRBAB

ブリューゲル、ルーベンス、ヴァン・ダイクら偉大なる画家たちで知られるフランドル絵画。その原点は、油彩画発祥の地といわれる現在のベルギーにあたるフランドル地方。ルネッサンス期からバロック期にかけ、ヨーロッパ中の貴族たちを熱狂させたのは、フランス絵画でもドイツ絵画でもない、フランドル絵画だった。緻密な描写と鮮やかで豊富な色彩は大人気となり、ベルギー王国として独立した1830年以降はベルギー絵画と呼ばれるようになる。それから印象派、象徴派、20世紀に入ってシュールレアリスムと時代ごとに変化を遂げたベルギー美術の全体像を見られるのが本展の見所である。
◆フランドル絵画の魅力
一言でいうなら「緻密な描写」に尽きる。また題材の奇抜さや表情の豊かさなど、素晴らしさ面白さは言葉で表現しつくせない。
ピーテル・ブリューゲル[父](?)《イカロスの墜落》©KMSKB-MRBAB

「イカロスの墜落」(ピーテル・ブリューゲル/1525~30年頃)は神話を題材にした詩集「転身物語」を材にした作品。飛ぶのに夢中で、父親の忠告も聞かず太陽に近づいたために落下し、海の藻屑となった若者を描いているが、本作で若者・イカロスの姿はなく墜落して逆さになった2本の足が海から出ているところだけが描かれている。それも左の隅にチョコッとだけ。見落としそうなくらい小さく、題名を知らなければありきたりな風景画に観えるところが面白い。また中央に描かれた野良仕事に励む農民との対比も実に奥深い。若者の墜落に無関心な人々が、残酷さや悲しみを見事に物語り、神話の世界と村人の日常が溶け合って、皮肉な滑稽さまで浮き彫りにしている。
本作だけでなく、全体を通して人物の表情がとても豊かに表現されている点が印象的で、グッと引き込まれてしまう作品に数多く出遭える。無名といっても、こちらが知らないだけで、作品の迫力はまさしく“本物”。本物だけがもつ力強さに圧倒されるだろう。
◆マグリッド晩年の連作で感慨に耽る
全100点余りの最後を飾るのは、やはりルネ・マグリットの作品。中でも晩年、「対立しあうものの結合」をテーマに23作も連ねたうちの1点である「光の帝国」はさまざまなイマジネーションが膨らむ名画だ。
一見してシンプルな風景画だが、日常とは何かが違う? 妙な不安感を掻き立てる本作は“昼と夜”という絶対に交わらない現象を1枚の絵に描きとめた画期的にして神秘的な作品。一体何を意図して描いたのか? とマグリットの精神状態を考えてみたくなるが、それ以上に観る者が本作をどう捉えるかが、まさに“主題ではないか?”と強く感じた。
これまで画集などで、魅惑的な「わけのわからなさ」に惹かれ、マグリットは偉大なる芸術家だと、それだけを思っていたが、今回その“本物”を目の当たりにして感じたのは、マグリットに思いを馳せるのではなく、自分が何を感じるかが面白い! ということだった。
この展覧会で「絵を見に行く」楽しさを、また一つ教えてもらったような気がする。
◆上野の山は芸術盛り
芸術の秋とはよくいったもので、毎年この時期には注目の展覧会が目白押しで、東京の芸術の本拠地である上野公園は連日、芸術好きの人々で溢れかえっている。
「ダリ回顧展」「大エルミタージュ美術館展」などは平日でも大変な人出で、休日ともなれば時間待ちは当たり前。そんなことも手伝ってか、相乗効果で比較的地味な本展覧会も、人が押し寄せている。「こっちが混んでいて仕方ないからベルギーでも観てくか」てな気持ちで訪れた人も少なくないのでは? そんな気持ちで入館した方は、本展の面白さにビックリ仰天したのではなかろうか。ひょっとするとそんな方たちの「口コミ」で、これから本展もさらに混むかもしれない。
●「ベルギー王立美術館展」主な作品画像
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1.ピーテル・ブリューゲル[子]《婚礼の踊り》©KMSKB-MRBAB
2.ピーテル・パウル・ルーベンス《聖ベネディクトゥスの奇跡》©KMSKB-MRBAB
3.ヤーコプ・ヨルダーンス《飲む王様》©KMSKB-MRBAB
4.アンソニー・ヴァン・ダイク《イエズス会神父ジャン=シャルル・デッラ・ファイユ》©KMSKB-MRBAB
5.テオドール・ファン・テュルデン《音楽/夫婦の調和の寓意》©KMSKB-MRBAB
6.フェルナン・クノップフ《シューマンを聴きながら》1883年©KMSKB-MRBAB
7.フェルナン・クノップフ《ジェルメーヌ・ヴィーナーの肖像》1893年頃©KMSKB-MRBAB
8.エミール・クラウス《陽光の降り注ぐ小道》1893年©KMSKB-MRBAB
9.ウィリアム・ドグーヴ・ド・ヌンク《孔雀》1896年©KMSKB-MRBAB
「ベルギー王立美術館展」国立西洋美術館
会期
9月12日(火)-12月10日(日)
開館時間 : 午前9時30分~午後5時30分
(金曜日は午後8時)※入館は閉館の30分前まで。
休館日 : 月曜日
料金(すべて消費税込)
・一般1400円(前売1200円/団体1000円)
・大学生1100円(前売900円/団体800円)
・高校生600円(前売400円/団体300円)
※中学生以下は無料。
※団体は20人以上(20名につき1名無料)。
※心身障害者と介護者1人は無料(入館の際に障害者手帳などのご提示をお願いします)。
所在地
〒110-0007 東京都台東区上野公園7番地7号
問い合わせ
03-3828-5131(代)電話
03-5777-8600(ハローダイヤル)
交通
・JR「上野駅」公園口 徒歩1分
・東京メトロ銀座線、日比谷線「上野駅」 7番出口 徒歩8分
・京成線「上野駅」 徒歩7分
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