◆上野の森美術館で「生誕100年記念 ダリ回顧展」を開催中こんなに楽しい、ワクワクする展覧会がこれまであっただろうか! チケット売り場からの館内への導入、展示会場、グッズ売り場を経て美術館を後にするまでの数時間が、まさに異空間だった。それもこれも「ダリ」だったからだ。難しい解説は無意味だろう、観る者ひとり一人が自由に発想を爆発させて「ダリ」を感じてほしい。たったそれだけで、この上ない満足感にひたれる、そんな素敵な展覧会である。 「記憶の固執の崩壊」 1952-54年/油彩、キャンバス/25×33cm サルバドール・ダリ美術館所蔵 Worldwide © Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, SPDA, Tokyo 2006 In the USA: ©Salvador Dalí Museum Florida/ Tokyo 2006 |
● ダリの生涯を追体験する
回顧展というタイトル通り、ダリというひとりの偉大な芸術家の生い立ちから晩年までの足跡をたどる、ビギナーでも分かりやすい展示内容になっている。少年時代から母の死、父との確執、愛妻ガラとの出会いから晩年へと進んでいく中で、ダリはいかにして「あの奇怪で魅惑的な作品を描くに至ったか」という興味深い“裏テーマ”が見えてくる。そんなことを考えながら見ていると、図録などの印刷物では体験できない“本物”だから見えてくる作品の深遠に引き込まれていくという、エキサイティングな体験が味わえる。
●第一場【ダリとカタルーニャ】
生まれ故郷であるスペイン・カタルーニャ地方は、ダリにとってイメージの源泉であり、制作に没頭できる独特の空気があったという。生地フィゲラスの他、港町カダケス、後に住むことになる漁村ポルト・リガトなどは、数々の作品に登場し、ダリの生涯において重要な意味をもっていたことがうかがえる。
「ラファエロ風の首をした自画像」
1921年/油彩、キャンバス/40.5×53.2cm
ガラ=サルバドール・ダリ財団所蔵
Worldwide © Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, SPDA, Tokyo 2006
●第二場【ダリと家族】
ダリが17歳の時に母が亡くなり、この頃から家庭では絶対的な権力を誇示していた父親との確執に歯止めが利かなくなり、作品もその思いが如実に表れてくる。また「自分は、自分が生まれる前に亡くなった同じ名の兄の身代わりではないか?」と悩み続けていたという。こうした家族の問題は、生涯にわたって作品の中に取り上げている。
「器官と手」
1927年/油彩、パネル/62.2×47.6cm
サルバドール・ダリ美術館所蔵
Worldwide © Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, SPDA, Tokyo 2006
In the USA: ©Salvador Dalí Museum Florida/ Tokyo 2006
●第三場【ダリとシュールレアリスム】
無意識の開放、あるいは純粋な心の表現をテーマにしたパリのシュールレアリスム運動に触発され、ダリが参加したのは1929年のこと。ダリにとって同運動は「私たちの幻視を制限する足かせ」を破壊するために企てた「錯乱の組織化」だったという。後にグループから除名されてしまうが、ダリはその生涯シュールレアリストとしての高い意識を持ち続け、作品はもとより、人間としても有名になる。そのターニングポイントとなったのがこの時期である。
「夜のメクラグモ……希望!」
1940年/油彩、キャンバス/64×79cm
サルバドール・ダリ美術館所蔵
Worldwide © Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, SPDA, Tokyo 2006
In the USA: ©Salvador Dalí Museum Florida/ Tokyo 2006
●第四場【ダリと偏執狂敵批判的方法】
シュールレアリスムの思想に基き、ダリは新たな表現方法を模索する中で「偏執狂的批判的方法」を生み出す。二重(ダブル)イメージの手法はその一例であり、ダリを語る上で外せない独創的な手法だ。一見「人の顔」に見えるが、見方を変えるとまったく異なる「風景」などに見えるという手法は、「我々の見ている世界とは実に多様な見方で解釈できる」ことを暗示し、人間の思考(イマジネーション)を一気に押し広げるエポックとなった。
「焼いたベーコンのある自画像」
1941年/油彩、キャンバス/61×51cm
ガラ=サルバドール・ダリ財団所蔵
Worldwide © Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, SPDA, Tokyo 2006
●第五場「ダリの晩年」
ダリはつねに最新の科学研究に興味を持ち、自分なりの解釈で作品に取り入れ、1940年以降には「相対性理論」や「原子物理学」をテーマにした作品を発表。さらには現代科学の考え方と、古代の錬金術やさまざまな神秘主義は共通すると確信し、異なる2つの統合を試みた「原子核神秘主義」などを考え出した。
「世界教会会議」
1960年/油彩、キャンバス/299.7×254cm
サルバドール・ダリ美術館所蔵
Worldwide © Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, SPDA, Tokyo 2006
In the USA: ©Salvador Dalí Museum Florida/ Tokyo 2006
映像に投影されたもう一人のダリ
80点あまりにおよぶ絵画や素描の他、貴重な映像作品を鑑賞できるのも見所のひとつ。1929年の制作ながら今なおカルト的な人気を誇る15分の実験的映画「アンダルシアの犬」を特別上映。ダリは共同制作で参加し、彼の世界を映像に焼き付けている。その他、アルフレッド・ヒッチコック監督の代表作「白い恐怖」をはじめ、ダリが関わった映像作品の貴重な資料を展示。ダリが映画好きであったことを物語っている。
追記
約1ヵ月で15万人が訪れ、平日でも4000人、土日や祝日は6000人が押し寄せる「ダリ展」。テレビで「ご来場は平日に」とアナウンスするなど、過去に類を見ない人気ぶりなので時間待ちは覚悟してほしいが、どんなに待っても会場がゴッタ返していても観る価値があることを付け加えておく。そしてもうひとつ、ミュージアムショップを絶対に素通りしてはいけません! ダリ人形をはじめお茶目で可愛いグッズから高価な宝飾品までどれも欲しくなる品々が山盛りで迎えてくれる。
「生誕100年記念 ダリ回顧展」会期
2006年9/23(土)-2007年1/4(木)
開館時間
午前10時~午後6時(入館は閉館30分前まで)会期中無休
料金(当日‐当日団体‐障害者)
一般 1500円(1300円/750円)
大高生 1100円(1000円/550円)
中小生 500円(400円/250円)
*団体は20名以上。
*未就学児は無料。障害者の介護者1名は無料です。
入館の際、障害者手帳などをご提示ください。
*チケット各主要プレイガイドでも販売しています。
お問い合せ
ハローダイヤル 03-5777-8600
所在地
東京都台東区上野公園1-2
交通
・JR上野駅・公園口を出て徒歩3分
・地下鉄銀座線・日比谷線上野駅より徒歩5分
・京成上野駅より徒歩5分
ホームページ
リポーターの勝手な感想~本展覧会もうひとつの画期的側面
ダリの生年月日は1904年5月11日、とすると生誕100年は2年前になる。実は2年前に「生誕100年記念」の展覧会が開催されるはずであった。今回展示された作品はすべて、アメリカのサルバトール・ダリ美術館とスペインのガラ=サルバトール・ダリ財団の2つが所蔵しているもの。2年前にそれぞれの所蔵作品のみで展覧会の企画が立てられ、その企画にあたっていたのが、今回主催で名を連ねているフジテレビと朝日新聞社。その両社がガッチリ手を組むという離れ業により(開催は2年ほど遅れたが)、当初のスケールを遥かに上回るビッグイベントに昇華したことは実に喜ばしい。展覧会などの主催で文化的事業に尽力し、世界的にも評価の高い両社が、こうしたかたちでコラボレーションできた事実は、今後の美術界に一石を投じたのではなかろうか。本展覧会のアナザーストーリーではあるが、知っていただきたいエピソードである。
リポーターの勝手な感想~極私的感想
シネマ・ディクト(映画狂)ならヒッチコック監督の「白い恐怖」あるいは先に紹介した「アンダルシアの犬」からダリに行き着く。こじつけ(あるいは妄想)の趣向ではあるが、ヒッチコック監督の鳥(卵)嫌いは自身のコメントや作品に表れ、恐怖映画の傑作「鳥」はその代表作である。一方ダリの作品には卵が代表的なモチーフになり、並々ならぬ思い入れを感じる。ヒッチコックは映画「白い恐怖」の美術をダリに依頼した理由を「明晰でシャープな場面が欲しかったからだ」と語っているが、果たしてそれだけだろうか? ヒッチコックにとってダリの作品(卵を材にした「皿のない皿の上の卵」など)は、恐怖の象徴だったかもしれない? と今回の展覧会で感じた。
もうひとつ、「カタルーニャのパン」や「奇妙なものたち」にも描かれたダリの代表的モチーフ“やわらかい時計”を見て、ピンク・フロイドの名曲「タイム」を想起させられたことを記しておきたい。「タイム」が収録された名盤「狂気(ダーク・サイド・オブ・ザ・ムーン)」は、プログレ(プログレッシブ・ロック)の神様と呼ばれたピンク・フロイドが1960年代にリリースした大ヒットアルバムで、21世紀を迎えた今でもセールスを記録し続けている作品だ。ライブで「タイム」が演奏される時に巨大なスクリーンに投影される映像を観ると、ダリの作品に影響されていると改めて感じた。「わけわからない」と評されるプログレとダリの世界との共通点を見出した時、「ピンク・フロンドを聴きながらもう一度この展覧会に来たい!」と思った。
[text by Sakae Ishikawa]


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