噂の「アイドル!」展を観覧した。横浜美術館の紹介文を抜粋してみよう。 『アイドルは、現代の日本社会にマス・メディアを通じて強いインパクトを与え続けています。この展覧会では、絵画、写真、映像、ダンス、ゲームなど多様な表現方式で、アイドルそのものを扱った作品や、アイドルを連想させる作品を紹介します。アイドルが現代日本でどのような役割を果たし、また私たちがアイドルにどのような思いを託しているのかを探っていきます。 近年、アイドルとは単に若い芸能人、タレントに限らず、幅広い世代やジャンルに及び、多様化してきました。人々の羨望の的であり、時代の鏡ともいえるアイドル。本展では、そんなアイドルの実態を解き明かし、その魅力に迫ります。』 草間彌生 《生命の輝きに満ちて》2006、PC(ハイ・ビジョン映像)、個人蔵 c2006草間彌生スタジオ |
出品作家は、篠山紀信、加藤美佳、川島秀明、蜷川実花、西野正将、KATHY、草間彌生、中原杏/小学館、株式会社セガ「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」。
では、個々の作家の作品を、“アイドル”というテーマ性に沿って鑑賞してみよう。
◆展示会場に入ってまず目に付くのは、壁一面に貼られたアイドル系TV情報誌「B.L.T」の表紙群。大きなパネルに引き伸ばした『B.L.T』の表紙には、最近のTVタレントたちが華々しく映っている。なるほど・・・。
◆順路通りに進むと、第1の展示室は「中原杏/小学館」。

中原杏/小学館
『きらりん☆レボリューション』より
これは小学館の月刊誌『ちゃお』で2004年から連載を開始して以来、小学生の女の子たちの間で大人気を博している少女漫画『きらりん☆レボリューション』の展示室だそうだ。展示室の奥ではテレビモニターから、その漫画をアニメ化した番組も流れており、幼稚園にあるようなテーブルには当の漫画本が置いてあって、小さい子が椅子に座ってゆっくり読めるようになっている。さらにピンク色を主体とした関連グッズの数々。
ふむ、ふむ…。ここで観覧者は、普通の女の子がアイドルを目指して奮闘する現代の新寺ストーリー『きらりん☆レボリューション』の世界にどっぷりと感情移入…、できるかどうかは保証できないけど、今時の小学生たちがどんな“アイドル”世界にハマっているのかは体感できるはず。
◆次の展示室は暗幕をくぐってビデオ上映室へ。
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KATHY
《Happy Birds》のためのプラン
2006年
KATHYという女性3人によるパフォーマンスユニットのビデオ作品が流れている。もえ係のかわいらしい服、しかしその顔面には黒タイツを貼り付けたような異様な仮面をつけた少女3人が、緑いっぱいの公園の中を踊ったり跳ねたり。この不可思議なユニットを初めて見た人は、ちょっと衝撃かも。キモカワイイという感じで、最初は拒否反応が起こるかもしれない。ところが、ビデオを眺めていると、仮面をかぶった少女たちの奇妙な踊り姿に馴染んできて、そのうちに甘美な愉悦感も湧き起こってくる。
このキモカワイイという感覚は、一昔前の既製品的なアイドル像に対するアンチテーゼとして、今時、あるいはこれから流行るアイドル全般に当てはまるキーワードなのかもしれない。
◆隣の展示室では篠山紀信の『山口百恵 激写』が上映されていて、両者を続けて見ると、70年代には存在していた確固たる偶像性と、何もかも多様になってわけがわからなくなっている現在の迷妄性を比較して感じ取ることができた。
そうそう、70年代には物事に意味があった。たとえ意味がなくても人々は意味を求めて何かと闘っていた。でも90年代以降、物事の意味が茫々としてしまった。今では、やってしまえばなんでもいいじゃん、という感じだ。やらなければ意味も無意味もない。やってしまえば意味があろうとなかろうと何かは伝わる。KATHYのパフォーマンスはそんな感じだ。
◆篠山紀信の上映室では、“伝説のアイドル・山口百恵”をたっぷりと拝むことができる。動画ではなく、静止画の連写で構成された映像作品だ。なぜ山口百恵が超アイドルとなったのか。その現象を今一度じっくりと再考してみることができよう。
迎賓館の周囲3.4キロをジョギングする光景が流れる。黄色いタンクトップに青いブルマーという格好の山口百恵は、まったくもってどこにでもいそうな女の子なのだ。篠山紀信の“目”は、少女の薄い胸やデップリした尻や太い脚を容赦なく捉える。それが普通の少女の現実の肉体。映像が変わり、今度は写真集の山口百恵。そこには時代から突出した存在感を放つ、妖艶かつ内省的な女が描出されている。
どちらも山口百恵という存在の一面。だが後者がなかったならば、山口百恵が稀代のアイドル足りえたかどうかは、わからないだろう。
◆篠山紀信の展示室を出ると、右手の奥の回廊に蜷川実花の作品がずらりと14点ほど並んでいる。

蜷川実花
《Sato Eriko》2005年
カラー写真フィルム、ラミネート加工
c2005 Mika Ninagawa
Courtesy Tomio Koyama Gallery, Tokyo
これは、最近の旬のタレントや俳優を、極彩色のテーマで撮った写真作品で、ただもうホレボレ。土屋アンナ、深田恭子、成宮寛貴、松田龍平などなど、凝りまくった衣装と演出により、普段テレビや映画で見る姿以上に晴れやかな彼らの存在感を堪能できるだろう。これはもう、アイドルたちをさらにアイドル色に塗るたくる相乗的上塗り効果と言うべきか。
◆次にちょっと戻ると、壁一面に『明星』の表紙。70年代のアイドルたちの顔がびっしり。中高年層には懐かしく、また若年層には返って新鮮? かもしれない。さっきの『B.L.T』の華々しさとは全く違った原色的きらびやかさだ。
◆さて、次の順路は「オシャレ魔女 ラブandペリー」コーナー。
これはゲームメーカーのセガが作ったキッズ向けカードゲームだそうだ。ここはまあ、なんと言うべきか、お子様連れの場合はちょっとしたご休憩? あるいは、こういうゲームが流行っていることのちょっとした体感、というところだろうか。
◆順路は加藤美佳の展示室へ。

加藤美佳
《Constellation》
2004年、油彩・カンヴァス、242.0x224.0cm
c2004 Mika Kato
Photo: Tamotsu Kido
Courtesy Jay Jopling/White Cube, London, Tomio Koyama Gallery, Tokyo
ロンドンで発表され日本では未発表の2点の少女像と、他に3点の作品。加藤美佳は、少女の人形を制作し、これを写真に撮って、その写真を緻密に絵画化するという手法で少女像を制作しているそうだ。
3重のファクターを通って描かれた少女の顔は、その瞳の強烈なリアリティと色彩の幻想性が相俟って、確かに、今この時代の鏡としての“アイドル”像と言えるかもしれない。美しくもあり、また死相を宿したような不気味な色肌の少女。その強烈な瞳は、妖精のように純粋にも見えるし、逆に、悪魔の化身かのような陰鬱な諦念の光も放っている。
◆隣の展示室からは、多少しわがれた朗誦が響いてきている。
何かと思えば、そう、その展示室は、草間彌生がいらっしゃるのだ。

草間彌生
《生命の輝きに満ちて》2006、PC(ハイ・ビジョン映像)、個人蔵
c2006草間彌生スタジオ
声に導かれて、がらんとした部屋に入ると、奥の扉に草間彌生が、まさにそこにいるかのように座って本を朗誦している。自作の『生命の輝きに満ちて』を詠んでいらっしゃる映像が等身大で流れているのだ。
しばし聞き惚れよう。意味は追わなくていい。部屋の入り口に詩のコピーが置いてあるから、あとでゆっくりと読み返せばいい。この場ではただ、現代アート界のアイドルと評してもおかしくない稀代のコンテンポラリー・アーティスト、草間彌生の存在感をその声とともにじっくりと味わってみよう。
◆次の展示室は西野正将。

西野正将《New Generations》2006年
タイプCプリント、300×220cm
Photo by: Zenichiro Kono
西野正将は1982年生まれで、今回の展覧会の中で一番若い作家だ。展示作品は「New Generations」と題された写真。黄色いTシャツに半ズボンの少年がやや傾き加減で背中を向けている写真だ。その背に何を読み取りえるのかは…、各人各様なのだと思う。
西野氏の別室では7本の映像作品。日常の何気ない光景を何気なく切り取ったような映像だ。これは何だろう。きわめて個的な視線のきわめて個人的な有意義性? などと小難しく考えなくても、気楽にボーっと眺めていると、何やらふう~っとリラックスしてしまうのは、そんな個的な視線の捉えた光景に、何ゆえか愛しさを覚えてしまうからなのかもしれない。
そう言えば、篠山紀信の展示室では、山口百恵が使っていた日用品の数々の写真を流していた。アイドルの私物に何らかの憧憬を抱いてしまう心理がファンにはある。アイドルが何気に使っていた私物。作家が何気に捉えた個人的光景。その両者に抱きえる温度感には似たところがある…、などと思うのは思い過ぎだろうか。
◆最後の展示室は川島秀明。

川島秀明《roses》2006年、アクリル絵具・カンヴァス、227×182cm
c2006 Hideaki Kawashima
Courtesy Tomio Koyama Gallery, Tokyo
巨大な瞳を持つ女性像の大きな絵が5点展示されている。一見するとどれも似た女性像なのだが、色彩の基調は異なり、しかもよく観ていると、その瞳から放たれる内面的なものは、どの女性もかなり違う。
ピンクの色調の『roses』は媚びるような妖しい目。クリーム色が基調の『star』は何かに挑むような強い瞳。赤が色調の『scarlet』は、相手を蔑み断罪するような冷徹な瞳。ブルーの背景に白い髪の『light』はこの世のものならぬものを見つめるような神秘的な目。そして『heaven』の瞳は、怒り憎む力を放っている。
アイドルという観点から論考すると、5通りの眼力を持つ永遠の女性像=アニマ、とでも言えようか。
どの女性像の瞳にも母性的な優しさはない。川島秀明の展示室は、5点の作品から放たれる、何やら危なくも幻惑的なオーラに満ちていた。
◆アイドル…、そして「アイドル!」展…、私のアイドルは…、あれこれと考えつつも、閉館時間となって美術館の外に出ると、美術館の背後にそびえるランドマークの上に、ぽっかりとお月様が浮かんでいた。
[text by Junichi Ishikawa :Art inn chief editor]
「アイドル!」
会場
横浜美術館
会期
2006年10月7日(土)→2007年1月8日(月・祝)
開館時間
10時から18時(金曜は20時)※入館は閉館の30分前まで。
休館日
毎週木曜日(ただし11月23日は開館)、11月24日(金)、12月29から31日、1月1日(月・祝)
入館料
大人1000(900)円
大学・高校生600(500)円
中学生300(200)円
( )内は20名以上の団体料金。
小学生以下無料/障害者手帳をお持ちの方と介護の方(1名)無料/毎週土曜日は高校生以下無料(生徒手帳・学生証をご提示ください)
毎週土曜日は中学・高校生無料(生徒手帳・学生証をご提示ください)。
本展チケットで横浜美術館コレクション展もご覧いただけます。
住所
〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい三丁目4番1号
電話
TEL 045-221-0300 FAX:045-221-0317
交通
JR、横浜市営地下鉄をご利用の場合:桜木町駅下車、【動く歩道】を利用、徒歩10分。
みなとみらい線(東急東横線直通)をご利用の場合:みなとみらい駅下車、「美術館口」を出て徒歩3分。
バス
桜木町駅から、市営バス57・145系統で「横浜美術館」下車。
車
桜木町駅前から帆船日本丸方面へ入る。または桜木町駅前から紅葉坂交差点を右折してMM21地区へ入り、美術館へ。
横浜駅からは高島町MM21地区入口を通って美術館へ。いずれも3~5分(首都高「みなとみらいランプ」も利用できます)。

