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 愉快に、痛快にゲージツを笑っちゃおう!

『日本美術が笑う』展 縄文から20世紀初頭まで若冲、白隠、円空、劉生-
『笑い展 現代アートにみる「おかしみ」の事情』大好評開催中!


鳥光桃代 《Horizons》 2004年
人工芝、発泡スチロール、PVCパイプ、モーター、ウレタン樹脂



 みなさん笑ってますか! 忙しくて深夜のテレビ番組から流れるお馴染みの芸人を観て笑うのが関の山ではないでしょうか? そんな多忙な現代人に森美術館が贈るとっておきの企画。「新旧・笑いのダブル展」と銘打たれた本展覧会は文字通り、日本美術(旧)と現代アート(新)それぞれの分野を「笑い」でバッサリ切り込んだ大胆な展覧会だ。
 和んだ笑いが思わず出てくる日本美術。馬鹿馬鹿しく爆発的な笑いがこだまする現代アート。笑いについて深く考えさせられたかと思えば「これがアートかあ?」と疑いたくなるようなくだらない作品までバラエティー豊かに集めた懐の深い展覧会であるが……とにかく会場へ行って「展覧会でゲラゲラ笑う」という、常識的な展覧会ではあり得ない痛快無比な体験を味わってほしい。



知的に笑いを考える心地良さ
『日本美術が笑う』展 縄文から20世紀初頭まで若冲、白隠、円空、劉生-

 ほのぼのと思わず和んでしまうものや、残酷さを笑いに換えたブラックなもの。縄文から江戸まで時代の流れを順繰り見ていくと、「日本の笑いとは何か?」などと、笑いを知的フィールドで深く考えたくなる、ちょっぴり高尚な香り漂う雰囲気がとても心地良い。建築家・千葉学氏による展示ケースデザインもぴったりマッチしているので、展示空間全体を視野に入れて、ゆったり鑑賞してほしい展覧会だ。

1.土の中から~笑いのアーケオロジー:土偶、埴輪
 アーケオロジー(考古学)と笑いは果たして結びつくのか? と疑問に思うかもしれないが、土偶や埴輪が笑っているように見えたり、中には明らかに笑いを表現したものが多く発掘されている。笑いは、外敵や災いから古墳を守る力があると信じられていたことから、日本には古来より「笑い」を形にする系譜が続いてきたと考えられている。


《土面》(仏並遺跡出土)縄文時代後期 所蔵:(財)大阪府文化財センター


2.意味深な笑み:寒山拾得、近世初期風俗画、麗子像
 岸田劉生の代表作「麗子像」に影響を与えたと云われる、寒山拾得図や近世初期の風俗図から、麗子像独特の笑い顔の原点を探る。ずる賢さやたくらみが見えるような“意味深”な笑い顔、風俗画の中でも特に女性(美人画)の微妙な表情は、ブラックユーモアに通じる妖しい魅力を秘めている。


岸田劉生《麗子弾絃図》1923年 油彩、カンバス40.9×31.7㎝ 所蔵:京都国立近代美術館


3・笑いのシーン
 室町時代の御伽草紙に見られる、読者が思わず笑ってしまうような挿絵は、江戸時代の風俗画へと受け継がれていく。緻密な描写の中に見られる大らかな笑いや、あるいは簡素化され稚拙にも見えるデフォルメされた表情は、現代アートに通じるものがあり、笑いの表現が時空を超えて我々に新鮮な驚きを与えてくれる。

4・いきものへの視線
 全身が入りきらない象、牛の猛々しさが現れた掛け軸。斬新な構図や擬人化で、画に風刺や主張など何かを語らせようとした手法は江戸時代の特徴でとてもユニーク。渡来した初めて見る動物の異様さや恐怖、または生き物に対する優しい眼差しが生き生きと表現され、微笑ましい気持ちを思い起こさせてくれる。


伊藤若冲《白象図》 紙本墨画 個人蔵 1768年



長澤蘆雪《牛図》 1781~89年頃(天明年間) 紙本着色 鐵斎堂


5.神仏が笑う~江戸の庶民信仰
 笑いが幸福や富、長寿に結びつく“縁起もの”として多く描かれた「笑う神仏」たち。江戸時代の宗教者たちが、笑うことが目的ではなく、民衆布教の手段として用いた神仏の画や仏像を集めたこの最終章で、笑いを神仏のレベルへと昇華させる。


白隠《蓮池観音》江戸時代 紙本着色



伊藤若冲《伏見人形図》 1799年頃 紙本着色



木喰《玉津島大明神》 1807年 木彫49㎝ 河井寛次郎記念館


Art inn カエル
~ゆったりした空間を演出し立体的展示が見事!

 大らかな雰囲気が会場を包み、作品全体から感じられる「和みの笑い」にぴったりハマッっていた。作品ごとに集中して鑑賞するのはもちろんだが、展示スペース全体を視野に入れて眺める、という動作をやってみてほしい。単に美術品を並べるだけではなく見せ方ひとつ(演出)で気持ちいい空間が創れる、展示のお手本を見るようだった。
 特に「5.神仏が笑う~江戸の庶民信仰」の仏像を円形に配置した展示は面白い。遠めで眺めると神殿のような荘厳さがあるが、円の中心に立つと周りから沢山の仏像に笑いかけられる、という何とも幸せな気分に浸れる。
 作品では「3・笑うシーン」で見つけた「病草紙」。病気をユーモラスに描いた作品で、滑稽さと残酷さが入り混じったアブナイ笑いは落語のネタにもなっており、「病草紙」に落語の原点を見た気がして、とても印象に残った。




美術館で笑えるなんて!
『笑い展:現代アートにみる「おかしみ」の事情』

 前衛からナンセンスなものまで、約50名のアーティストから集めも集めたり、その数なんと200点! クスッとコッソリ笑うものから大爆笑したくなる馬鹿馬鹿しいものまで、芸術作品かどうかを判断するのは、他でもないあなたです!
 ジョークに風刺、一発ギャグ? どの作品も“目の付け所”がユニークでシャープな切れ味を持ち、テレビの笑いに馴らされた頭にはかなり刺激的で、そこが“アート”たるゆえんである。静寂が常識の美術館が、本展覧会だけは無礼講。存分に笑いたまえ!

SECTION1 前衛の笑い
アーティスト:赤瀬川原平、ジョージ・マチューナス、オノ・ヨーコほか

 近代芸術のエリート主義に対抗した「ダダ」や「反芸術」の姿勢。そのエネルギーは第二次世界大戦後に加速度を増し前衛芸術運動をはじめさまざまな現代アートの基礎を生んだ。本展覧会で取り上げたジョージ・マチューナスのジョークやユーモアは国際的に評価され、日本のアーティストたちにも大きな影響を及ぼした。

SECTION2 小さな笑い
アーティスト:磯崎道佳、マット・ジョンソン、マルコス・シャーヴェスほか

 日常の中から新しい価値観を見つけ出そうとした1990年以降の傾向は、日常と芸術の融合を試みた60年代のムーブメントに共通する“小さなアート革命”。しみじみとおかしさが湧いてくるマット・ジョンソンの《パンの顔》や「くっだらねぇ」と思いながらグイグイ引き込まれる磯崎道佳の映像作品《ファット・ボーイズ・スマイル・イン・ニューヨーク》など、日常をほんの少し歪めた(目線を変えた)ために現れる笑いが実に面白い。



マルコス・シャーヴェス 《無題/笑うマスク》 2005年 ビデオ1分55秒(ループ) in collaboration with André Sheik (camera) and Leo Domingues (editing) Photo: André Sheik



マット・ジョンソン 《パンの顔》 2004年 鋳造されたプラスチック、油彩 9.5×2×10 cm Courtesy: The artist, Blum & Poe, Los Angeles and Taxter & Spengemann, New York


SECTION3 笑いの裏返し
アーティスト:会田誠、タミ・ベン=トール、ブルー・ノーズほか

 1990年代以降、情報の加速は地球規模に広がり、メディアをはじめあらゆる分野で多様化が進んだ。その流れはアートにおいても同様で、特に映像は細分化の一途を辿っている。会田誠の《日本に潜伏中のビン・ラディンと名乗る男からのビデオ》やタミ・ベン=トールの《アドルフ・ヒトラーについて語る女たち》など、現代社会の病巣を笑いによって浮き彫りにするという、笑いの持つ側面を効果的に活かした作品は興味深い。



会田誠 《日本に潜伏中のビン・ラディンと名乗る男からのビデオ》 2005年 ヴィデオ(DVD変換)8分14秒Courtesy: Mizuma Art Gallery Photo: Okada Hiroko



タミ・ベン=トール 《アドルフ・ヒトラーについて語る女たち》 2004年 ビデオ7分40秒 Edited by Anat Ben David Courtesy: The artist and Zach Feuer Gallery, New York



ブルー・ノーズ 《チェ・ゲバラの30年後(革命は続く)》 2005年 布にプリント 200×300 cm Courtesy: Galerie Volker Diehl, Berlin and M.Guelman Gallery, Moscow



ロビン・ロード 《無題/街灯》 2005年 Cプリント 45×30 cm (×24) Courtesy: Tucci Russo Studio per I'Arte Contemporanea, Turin, and Perry Rubenstein Gallery, New York



ロビン・ロード 《無題/街灯》 2005年 Cプリント 45×30 cm (×24) Courtesy: Tucci Russo Studio per I'Arte Contemporanea, Turin, and Perry Rubenstein Gallery, New York



ロビン・ロード 《無題/街灯》 2005年 Cプリント 45×30 cm (×24) Courtesy: Tucci Russo Studio per I'Arte Contemporanea, Turin, and Perry Rubenstein Gallery, New York


SECTION4 逸脱する笑い金氏徹平、ピーター・ランド、山本高之ほか

 現実と妄想の境界線ギリギリ(イクかイカナイか)のところにある面白さ(うまみ)をスッパリ捨て、「あちら側へ」イキきってしまい自由な世界で羽を広げるアーティストたち。 
 現実の逸脱によって表現された、一見笑えない不快さや残酷性は、「笑っていいものか?」という、モラルの限界を見る者に突き付ける作者からの挑戦状にも思える。



金氏徹平 《White Discharge (Figure)/白の排出(フィギュア)》 2005年 プラスチックフィギュア、石膏、ゴム、ジェッソ、ミクスト・メディア Photo courtesy: Kodama Gallery, Osaka / Tokyo



ピーター・ランド 《初めての登校》(「はじめての登校」シリーズより) 2005年 水彩、鉛筆、紙 41.5×29.5 cm(×10) ニコラ・ジャナリア氏蔵、トリノ Photo: Anders Sune Berg, Copenhagen Photo courtesy: Galleri Nicolai Wallner, Copenhagen



山本高之 《スプーン曲げを教える(レッスン1、シャージャアートセンター、アラブ首長国連邦、2003)》 2001年 ヴィデオ7分


Art inn カエル
~えぇっ? 笑ってもいいんですか!?

 静かに、おしとやかに鑑賞する。それが美術館のルールだが、「笑い」をテーマにしている以上、お行儀よく観なさいと云うのは無理である。事実、あちこちから笑い声が上がり「あっちは何があるんだろう?」と気になってしまう。そんな常識はずれの展覧会は初めてだし、刺激の強いアート・イベントとして記憶に残るだろ。
 作品で印象に残ったのはオノ・ヨーコの作品。60~70年代にかけてサブカルチャーの洗礼を受けた世代にとって、ジョン&ヨーコ=前衛芸術は、決して笑ってはならない聖域にあった。訳がわからなくても、あるいはおかしくても、その思いを隠し表面は難しい顔をして「すごい!」と、分かった風なことを云わなければならない時代が確かにあった。
 それが……今となっては「笑い展」で出品である。「えぇっ? オノ・ヨーコのゲージツを笑ってもいいんですか!?」と、思わず躊躇してしまう世代(40~50代)に、万感の思いをこめてここに宣言する。「大いに笑いましょう!」。

TEXT by Sakae Ishikawa

DATA
●名称/『日本美術が笑う』展 縄文から20世紀初頭まで若冲、白隠、円空、劉生-、『笑い展:現代アートにみる「おかしみ」の事情』
●会場/森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
●会期/1月27日・土~5月6日・日
●開館時間/10時~22時(火曜日のみ10時~17時・会期中無休)※3月20日・火、5月1日・火は閉館時間を22時まで延長
●入館料/1,500円(一般/当日)
●所在地/〒106-6150 東京都港区六本木6-10-1
●アクセス/六本木ヒルズまで東京メトロ・六本木駅からコンコースにて直結、都営地下鉄大江戸線・六本木駅3出口より徒歩4分、麻布十番駅南3出口より徒歩5分
●問い合わせ/03-5777-8600(ハローダイヤル)
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