美術館で笑えるなんて! 『笑い展:現代アートにみる「おかしみ」の事情』
前衛からナンセンスなものまで、約50名のアーティストから集めも集めたり、その数なんと200点! クスッとコッソリ笑うものから大爆笑したくなる馬鹿馬鹿しいものまで、芸術作品かどうかを判断するのは、他でもないあなたです!
ジョークに風刺、一発ギャグ? どの作品も“目の付け所”がユニークでシャープな切れ味を持ち、テレビの笑いに馴らされた頭にはかなり刺激的で、そこが“アート”たるゆえんである。静寂が常識の美術館が、本展覧会だけは無礼講。存分に笑いたまえ!
SECTION1 前衛の笑い
アーティスト:赤瀬川原平、ジョージ・マチューナス、オノ・ヨーコほか
近代芸術のエリート主義に対抗した「ダダ」や「反芸術」の姿勢。そのエネルギーは第二次世界大戦後に加速度を増し前衛芸術運動をはじめさまざまな現代アートの基礎を生んだ。本展覧会で取り上げたジョージ・マチューナスのジョークやユーモアは国際的に評価され、日本のアーティストたちにも大きな影響を及ぼした。
SECTION2 小さな笑い
アーティスト:磯崎道佳、マット・ジョンソン、マルコス・シャーヴェスほか
日常の中から新しい価値観を見つけ出そうとした1990年以降の傾向は、日常と芸術の融合を試みた60年代のムーブメントに共通する“小さなアート革命”。しみじみとおかしさが湧いてくるマット・ジョンソンの《パンの顔》や「くっだらねぇ」と思いながらグイグイ引き込まれる磯崎道佳の映像作品《ファット・ボーイズ・スマイル・イン・ニューヨーク》など、日常をほんの少し歪めた(目線を変えた)ために現れる笑いが実に面白い。

マルコス・シャーヴェス 《無題/笑うマスク》 2005年 ビデオ1分55秒(ループ) in collaboration with André Sheik (camera) and Leo Domingues (editing) Photo: André Sheik

マット・ジョンソン 《パンの顔》 2004年 鋳造されたプラスチック、油彩 9.5×2×10 cm Courtesy: The artist, Blum & Poe, Los Angeles and Taxter & Spengemann, New York
SECTION3 笑いの裏返し
アーティスト:会田誠、タミ・ベン=トール、ブルー・ノーズほか
1990年代以降、情報の加速は地球規模に広がり、メディアをはじめあらゆる分野で多様化が進んだ。その流れはアートにおいても同様で、特に映像は細分化の一途を辿っている。会田誠の《日本に潜伏中のビン・ラディンと名乗る男からのビデオ》やタミ・ベン=トールの《アドルフ・ヒトラーについて語る女たち》など、現代社会の病巣を笑いによって浮き彫りにするという、笑いの持つ側面を効果的に活かした作品は興味深い。

会田誠 《日本に潜伏中のビン・ラディンと名乗る男からのビデオ》 2005年 ヴィデオ(DVD変換)8分14秒Courtesy: Mizuma Art Gallery Photo: Okada Hiroko

タミ・ベン=トール 《アドルフ・ヒトラーについて語る女たち》 2004年 ビデオ7分40秒 Edited by Anat Ben David Courtesy: The artist and Zach Feuer Gallery, New York

ブルー・ノーズ 《チェ・ゲバラの30年後(革命は続く)》 2005年 布にプリント 200×300 cm Courtesy: Galerie Volker Diehl, Berlin and M.Guelman Gallery, Moscow

ロビン・ロード 《無題/街灯》 2005年 Cプリント 45×30 cm (×24) Courtesy: Tucci Russo Studio per I'Arte Contemporanea, Turin, and Perry Rubenstein Gallery, New York

ロビン・ロード 《無題/街灯》 2005年 Cプリント 45×30 cm (×24) Courtesy: Tucci Russo Studio per I'Arte Contemporanea, Turin, and Perry Rubenstein Gallery, New York

ロビン・ロード 《無題/街灯》 2005年 Cプリント 45×30 cm (×24) Courtesy: Tucci Russo Studio per I'Arte Contemporanea, Turin, and Perry Rubenstein Gallery, New York
SECTION4 逸脱する笑い金氏徹平、ピーター・ランド、山本高之ほか
現実と妄想の境界線ギリギリ(イクかイカナイか)のところにある面白さ(うまみ)をスッパリ捨て、「あちら側へ」イキきってしまい自由な世界で羽を広げるアーティストたち。
現実の逸脱によって表現された、一見笑えない不快さや残酷性は、「笑っていいものか?」という、モラルの限界を見る者に突き付ける作者からの挑戦状にも思える。

金氏徹平 《White Discharge (Figure)/白の排出(フィギュア)》 2005年 プラスチックフィギュア、石膏、ゴム、ジェッソ、ミクスト・メディア Photo courtesy: Kodama Gallery, Osaka / Tokyo

ピーター・ランド 《初めての登校》(「はじめての登校」シリーズより) 2005年 水彩、鉛筆、紙 41.5×29.5 cm(×10) ニコラ・ジャナリア氏蔵、トリノ Photo: Anders Sune Berg, Copenhagen Photo courtesy: Galleri Nicolai Wallner, Copenhagen

山本高之 《スプーン曲げを教える(レッスン1、シャージャアートセンター、アラブ首長国連邦、2003)》 2001年 ヴィデオ7分

~えぇっ? 笑ってもいいんですか!?
静かに、おしとやかに鑑賞する。それが美術館のルールだが、「笑い」をテーマにしている以上、お行儀よく観なさいと云うのは無理である。事実、あちこちから笑い声が上がり「あっちは何があるんだろう?」と気になってしまう。そんな常識はずれの展覧会は初めてだし、刺激の強いアート・イベントとして記憶に残るだろ。
作品で印象に残ったのはオノ・ヨーコの作品。60~70年代にかけてサブカルチャーの洗礼を受けた世代にとって、ジョン&ヨーコ=前衛芸術は、決して笑ってはならない聖域にあった。訳がわからなくても、あるいはおかしくても、その思いを隠し表面は難しい顔をして「すごい!」と、分かった風なことを云わなければならない時代が確かにあった。
それが……今となっては「笑い展」で出品である。「えぇっ? オノ・ヨーコのゲージツを笑ってもいいんですか!?」と、思わず躊躇してしまう世代(40~50代)に、万感の思いをこめてここに宣言する。「大いに笑いましょう!」。
TEXT by Sakae Ishikawa
DATA
●名称/『日本美術が笑う』展 縄文から20世紀初頭まで若冲、白隠、円空、劉生-、『笑い展:現代アートにみる「おかしみ」の事情』
●会場/森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
●会期/1月27日・土~5月6日・日
●開館時間/10時~22時(火曜日のみ10時~17時・会期中無休)※3月20日・火、5月1日・火は閉館時間を22時まで延長
●入館料/1,500円(一般/当日)
●所在地/〒106-6150 東京都港区六本木6-10-1
●アクセス/六本木ヒルズまで東京メトロ・六本木駅からコンコースにて直結、都営地下鉄大江戸線・六本木駅3出口より徒歩4分、麻布十番駅南3出口より徒歩5分
●問い合わせ/03-5777-8600(ハローダイヤル)
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