チェコの絵本とアニメーションの接点
カンヌやヴェネチアなどの国際映画祭で何度も注目され、やがて敬意を込めて「チェコ・アニメ」と呼称されるようになったチェコのアニメーション。第二次世界大戦後、人形アニメのパイオニアとして高く評価された巨匠トゥルンカは、アニメの制作と同時に数々の絵本や挿絵を手がけていた。チェコには絵本(静止画)とアニメ(動画)という2つの表現フィールドで作品を創り、素朴で詩的な独自の世界を構築してきた歴史と伝統がある。
完全分業制でハイクォリティーの作品を量産する日本では、作家一人が絵本もアニメも創るのは稀なことであり、ゆえに真似のできなりオリジナリティに溢れた作品が生まれるのではないかと思う。
村田朋泰さん(目黒区美術館で「村田朋泰展-俺の路・東京モンタージュ」を2006年開催)や山村浩二さん(短編アニメ「頭山」は傑作!)など、日本の映像作家に影響を及ぼしているチェコの絵本とアニメーション。見慣れた日本のもの比べ、共通点や違いを発見するのも、本展覧会の醍醐味である。
展示会の見どころ
Ⅰ チェコ絵本の「古典」となった作家たち
装飾性が高く愛蔵版としての色合いが強かった絵本は、20世紀に入るとより教育的になり大衆に広がっていく。チェコでは、シンプルな造形と美しい色彩、ユーモアや教訓を表現した優れた作品が生み出されていった。活躍していたヨゼフ・チャペックやヨゼフ・ラダの作品は、現在でも多くの人々に愛されている「古典」として、繰り返し再版されている。

ヨゼフ・チャペック『長い長いお医者さんの話』より「郵便屋さんの話」
挿絵(原画)c.1932 個人蔵、プラハ
※2/10~3/18までの展示となります。

ヨゼフ・ラダ『ラーヴラ王』
挿絵(原画)c.1947 ハヴリーチクーフ・ブロト美術館蔵
※3/20~4/8までの展示となります。

オンジェイ・セコラ『アリのフェルダ』
挿絵(原画)c.1936 個人蔵、プラハ
Ⅱ アヴァンギャルドの潮流とチェコ・アニメーションの礎
20世紀初頭に始まったアヴァンギャルドの芸術運動は、チェコのアート界を席巻し、絵本の世界にもコラージュや前衛的な表現が台頭。第二次世界大戦後、国営アニメーション・スタジオが設立され、指揮をとったイジー・トゥルンカは人形アニメで国際的な評価を獲得。ズデニェク・セイドゥルなど、技法の違いを超え、絵本とアニメの世界で叙情性の溢れる作品を創造するアーティストを輩出していく。

アドルフ・ホフマイステル『冒険家ユリオ・ユレニートとその弟子たち』
見返し(原画)c.1964 ハヴリーチクーフ・ブロト美術館蔵
※3/20~4/8までの展示となります。

イジー・トゥルンカ『動物たちと山賊たち』
セル画/挿絵(原画)c.1946 個人蔵、プラハ

イジー・トゥルンカ『こえにだしてよみましょう』
表紙(原画)c.1946 個人蔵、プラハ

イジー・トゥルンカ『マミンカ』
挿絵(原画・部分) c.1954 個人蔵、プラハ

ズデニェク・セイドゥル『魔法の読み書き絵本』
挿絵(原画・部分)c.1960 ハヴリーチクーフ・ブロト美術館蔵
※3/20~4/8までの展示となります。

クヴィェタ・パツォフスカー『玉飾りをつけたピエロ』
リトグラフ、紙 c.1983 ハヴリーチクーフ・ブロト美術館蔵

カレル・フランタ『ふたつのお下げ髪のための童歌』
挿絵(原画)c.1984 ハヴリーチクーフ・ブロト美術館蔵
※2/10~3/18までの展示となります。

エヴァ・ベドナージョヴァー『レニと呼ばれた私』
挿絵(原画)c.1967 ハヴリーチクーフ・ブロト美術館蔵
※3/20~4/8までの展示となります。
Ⅲ アニメーションが育むチェコ絵本
1965年、「ヴェチェルニーチェク」という子ども向けのTVアニメーション番組が始まり(現在も継続中)、さまざまなタイプの作品が発表されている。絵本からアニメとなった「もぐらのクルテク」シリーズやアニメから絵本になった「おおいぬフィーク」など、愛すべきキャラクターが誕生した。

アドルフ・ボルン『楽器のあいうえお』
挿絵(原画/リトグラフ)c.1982 ハヴリーチクーフ・ブロト美術館蔵
Ⅳ チェコ絵本の現在
1989年「ビロード革命」で国営の出版社は売却され、国営アニメーション・スタジオも制作活動を停止している中で、新世代の作家たちはそれぞれに模索しながら作品を発表。モチーフや技法などチェコの伝統を受け継ぎながら、新しいチェコの絵本とアニメーションの世界を構築しようとしている。

その1~原画=未完成のあたたかさ
絵本やアニメの原画や絵コンテなどは、製作過程に必要な“素材”の1ピースであり、云い方を変えれば本展覧会は素材(未完成品)の展示? ということになる。
しかし“未完成”だから確認できる情報があり、それをチクチク読み取っていくのが、本展覧会(原画展など)の隠れた楽しみである。ホワイトで塗りつぶした所や消しゴムの跡、薄っすら残る鉛筆のラインなど、完成品では綺麗さっぱり消えている修正箇所に、何とも表現し難い人間味が感じられる。そうした手作り感は完成品にも漂っていて、チェコの絵本やアニメにしかない独特の味わいになっているのではなかろうか。
本もアニメもデジタルで作成し、加工するのが当たり前になってきた日本では、もはや制作不可能かと思うと“手作り”の温かさが、とても愛おしくなってくる。
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1 展示風景(「Ⅱ アヴァンギャルドの潮流とチェコ・アニメーションの礎」より)。中央に展示された絵本は版型(かたち)が多彩で、日本の絵本に比べて制作の自由さを感じる。
2 展示物のクレジットの隣に張られた小さな絵にも注目。チェコの出版社のマークやチェコテレビのキャラクターマークなどのデザイン画で、云わばこれも“展示品”。1点1点違います!

その2~美術館はがんばってるゾ!
2階展示室の一角を「絵本のひろば」とし、腰掛けて絵本を読めるスペースを設けてあり、チェコ絵本を手にとってゆっくり眺められるのが、実に良い展示演出だと思う。
また同フロアの「映画の部屋」では大きなスクリーンでチェコのアニメ作品を上映。短いもので1本7分くらいなので、途中から観てもあまりストレスを感じないのが良い。
ちなみに、本展覧会を紹介する美術館オリジナルのビデオも上映されている。その作品のBGMが実に良かったので係員に問い合わせたところ、自分たちで作ったオリジナル曲だと聞いて驚いた。「絵本のひろば」やオリジナルBGMなど、何とも心憎い“手作り”感覚が「チェコ絵本とアニメーションの世界」の味わいを深めていて、「美術館はがんばってるゾ!」ということが伝わってくる展覧会である。
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3 「Ⅱ アヴァンギャルドの潮流とチェコ・アニメーションの礎」の展示室を示す案内。展覧会に合わせたデザインは好印象だ。
4 展示室の導線を飾った赤い屋根も目黒区美術館独自の発想。展覧会に合わせたさりげない演出がとても温かい雰囲気を出している。
5 チェコの絵本を手にとって読める「絵本のひろば」。腰掛けて一息つけるし、絵本も読める、とても良いサービスである。
(以上、展示会場にて) [1~5 : photo by Junko Matsuda]
TEXT by Sakae Ishikawa
DATA
●名称/「チェコ絵本とアニメーションの世界」
●会場/目黒区美術館(2階展示室および1階カフェ・スペース)
●会期/2007年2月10日(土)~4月8日(日)※会期中3月20日(火)より一部の作品を入れ替えて展示
●開館時間/10:00~18:00時(入館は17:30まで)
●休館日/月曜日
●入館料/一般800(600)円/大学生700(500)円/高校生・65歳以上500(300円)/小中学生無料/障害者半額/チェコ・パス1200円(会期中何度でも観覧できます)※( )内は20名以上の団体料金
●所在地/〒153-0063 東京都目黒区目黒2-4-36
●アクセス/JR山手線・東急目黒線・東京メトロ南北線・都営地下鉄三田線「目黒駅」より徒歩10分
●問い合わせ/03-3714-1201(代)
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★関連イベント
昼下がりの講演会「チェコ絵本の魅力」
講師:スタニスラヴァ・ザーブロドゥスカー(ユーロメディア編集者)
※チェコ語通訳あり
日時:3月11日(日)14:00~16:00
会場:目黒区美術館1階ワークショップ
定員:80名
料金:無料(入館料が必要)
昼下がりの上映会「チェコ・アニメ・チェコ・テレビ」
講師:小野耕世(映画評論家)
日時:3月17日(土)14:00~16:00
会場:目黒区民センターホール
定員:400名
料金:500円(当日13:00から会場にてチケット販売) |