![]() 「南瓜」草間彌生、撮影:安斎重男 |
アートファン憧れの島「直島」リポート
現在、大規模な企画展が開催中の直島。1992年以来、地元に根ざしたアート活動を続け、豊かな自然と現代アートが見事に融合した、他に類を見ない創造(想像)の場として高い評価を得ている直島。評判は口コミで徐々に広がり、今や日本はおろか世界中のアートファン憧れの“島”として、年々訪れる人が増えている。
春。アート界注目の島へ旅をするには良い季節だ。自然とアートで、心と身体をほぐしてくれる直島へ行ってみてはいかがだろう。
ベネッセアートサイト直島では現在、企画展「NAOSHIMA STANDARD2」が開催中(2007年4月15日(日)まで)。取材は春休みとあって、若者を中心に多くの来場者が訪れていたが、ガサガサしていない独特の静けさとのんびり流れる時間の感覚は、観光地とは決定的に違う。地図を片手に日がな一日、自転車で島中に点在する作品を見て回るのは、他に類を見ない楽しさだ。写真は、大竹伸朗や杉本博司の作品がある「オカメの鼻」付近。
穏やかな瀬戸内海に浮かぶ直島
四国・香川県香川郡直島町。面線8.13k㎡(本島のみ)、人口約3500名の直島は高松市の北約13kmの瀬戸内海に浮かぶ島。北側は大正時代から銅の製錬が続いている工業地帯で、南部は瀬戸内海国立公園に含まれ、豊かな自然に恵まれているエリア。漁業はハマチや海苔の養殖が盛んに行われている。
企画展「NAOSHIMA STANDARD2」および常設展の作品は、島のあちこちに点在し、1日ですべてを見ようとすると、かなり駆け足になる。直島はのんびり過ごしながら作品との触れ合いを楽しむのが理想的な、滞在型のアートリゾートと心得ていただきたい。
詳しくはコチラ(直島町ホームページまで)
ゆっくりと寄せては返す、どこまでの穏やかな波。太平洋や日本海しか知らない者にとって瀬戸内海は、驚愕の静けさ。それだけで気持ちがリフレッシュする。取材は作品が多く点在する、宮ノ浦と本村を結んだ中心から南の半分ほど。ベネッセハウスのある南側の海岸線は、多くのアートに出会えるので、歩いて見て行くのが相応しい。
直島へのアクセス
直島へのアクセスは海路のみ。岡山県宇野港(JR岡山駅から宇野線で約50分)からと香川県高松港(JR高松駅から徒歩約3分)から入る2つのルートがある。
詳しくはコチラ(四国汽船㈱のホームページまで)
時間をかけて紡いできた直島の「アートプロジェクト」
「瀬戸内海の風景の中、ひとつの場所に、時間をかけてアートをつくりあげていく」という、ベネッセアートサイト直島の芸術活動は、直島の自然や地域固有の文化の中に、現代アートや現代建築を設置することで、どこにもない特別な場所と経験を創造するという試みだ。このアートプロジェクトは、本村地区の「家プロジェクト」と「本村ラウンジ&アーカイブ」、島の南に位置する「ベネッセハウス」を中心に展開しており、これから先も時空を超え世代を超え、延々と続いていく予定だ。
「本村ラウンジ&アーカイブ」は農協のスーパーを改築した、ベネッセアートサイト直島のスタッフ用オフィス兼、関連グッズや書籍を販売するショップ。直島のアートプロジェクトに関わりのあるアーティストや建築家の資料なども閲覧可能で、来場者の休憩所としても機能している。直島の玄関口「宮浦港」からバスで約10分。「農協前」停留所の最寄りで、来場者の多くが、ここを観覧のスタート地点としている。レンタルサイクル(10:00~17:00まで/500円)など各種サービスを行っている旅人の強い見方。
本村ラウンジ&アーカイブ(撮影:山本糾)
開館時間:10:00~16:30
休館日:月曜日(月曜が祝日の場合は開館)、年末年始
所在地:〒761-3110 香川県香川郡直島町850-2
電話:087-840-8273
Fax:087-840-8277
「家プロジェクト」
本村地区の空き家など、古い家屋を素材として、アーティストたちが建物とその空間を作品にしたプロジェクト。微笑ましいものからシブいものまで個性豊かな作品は、どれも力作である。
鑑賞時間:10:00~16:30(月曜休)
鑑賞料金:大人・小人とも500円/税込(本村ラウンジ&アーカイブ、ベネッセハウスなどで販売)
詳しくはコチラ(ホームページまで)
![]() 家プロジェクト 「角屋」 宮島達男 Sea if Time ‘98(時の海 ‘98) 撮影:上野則宏 |
![]() 家プロジェクト 「南寺」 安藤忠雄(設計) 撮影:山本糾 |
![]() 家プロジェクト 「南寺」 ジェームズ・タレル Backside of the Moon(バックサイド・オブ・ザ・ムーン) 撮影:山本糾 |
![]() 家プロジェクト 「護王神社」 杉本博司 家プロジェクト |
![]() 「きんざ」 内藤礼 このことを 撮影:森川昇 ※「きんざ」の鑑賞は要予約。 詳しくはコチラ(ホームページまで) |
海岸線など島のあちこちに点在するアート作品
1992年「自然・建築・アートの共生」をコンセプトにオープンしたベネッセハウスは、前述のコンセプトを具現化した画期的な施設。外に向かって大きく開かれ、室内でも自然を感じられる特性を持ち、訪れたアーティストたちは場所を選び作品を制作する。展示は館内に留まらす、海岸線や林の中など、いたるところに点在し、こうした活動が徐々に拡散し、やがて島全体が自然とアートが融合した独特の空間へと変化していった。開放的な自然の中で息づく作品は「芸術の持つ力とは何か?」を改めて観る者に伝えてくれる。
![]() 「シップヤード・ワークス 船尾と穴」 大竹伸朗 撮影:村上宏治 |
![]() 「茶のめ」 片瀬和夫 撮影:村上宏治 |
![]() 「南瓜」 草間彌生 撮影:安斎重男 |
![]() 「フォー・ラインズ」 ジョージ・リッキー 撮影:山本糾 |
![]() 「文化大混浴 直島のためのプロジェクト」 蔡國強 撮影:藤塚光政 |
「ベネッセハウスミュージアム」
1992年にオープンした、ベネッセアートサイト直島の中心的存在。展示されている作品は、喜怒哀楽といった心のありようを表現しているようで、意味は分からなくとも魂をダイレクトに揺さぶる秀作が揃っている。
![]() 「タイム・エクスポーズド」 杉本博司 撮影:安斎重男 |
![]() 「天秘」 安田侃 撮影:山本糾 |
![]() 「無題」 ヤニス・クネリス 撮影:安斎重男 |
![]() 「瀬戸内海の流木の円/瀬戸内海のエイヴォン川の泥の環」 リチャード・ロング 撮影:山本糾 |
鑑賞案内
開館時間:8:00~21:00(入館は閉館の1時間前まで)年中無休
鑑賞料金:大人1000円/小人(3歳以上小学生以下)500円(税込)
※ベネッセハウス宿泊者は無料
電話:087-892-2030
※ホテルスタッフ、美術館スタッフによるギャラリーツアーあり。詳しくはフロントで確認。
「ベネッセハウス」
島の南側の高台に建つ、ベネッセアートサイト直島の中心的施設。安藤忠雄の設計によるコンクリートを活かした、いかにも“現代建築”が、瀬戸内海を望む絶好のロケーションにどっしりと構えている。この場所のためにアーティストたちが制作した、サイトスペシフィック・ワークスを永久展示するミュージアムでありながら、滞在用客室、レストラン、カフェ、バーを備えた、ゆっくりくつろぎながらアート鑑賞を満喫できる施設だ。
2006年には高台下の海辺に新しい宿泊棟がオープン。「パーク」「ビーチ」と呼ばれる2つの宿泊棟は、安藤忠雄の設計としては希少な木造2階建てで、49の客室を備えている。
林に中にたたずむ落ち着いた施設で、リサイクルしやすい集成材を使うなど、環境に配慮したこだわりの建築。宿泊客以外の方も利用できるレストランやスパを併設している。
![]() ベネッセハウスの外観(撮影:山本糾)。 他に類を見ない美術館とホテルの複合施設。 リピーターも多いので、宿泊の予約は早目が得策だ。 |
![]() 海岸に近い宿泊棟「パーク」。 目の前の公園には数々の野外展示作品がある。 |
![]() 絶好のロケーションが食事をより美味しくする「テラスレストラン」。 |
![]() 地元の魚介類を中心とする本格料理はまさに皿の上のアート。 舌と目を楽しませてくれる(写真は人気の「ブイヤベース」)。 |
所在地:〒761-3110 香川県香川郡直島町琴弾地
電話:087-892-3223(9:00~21:00)
客室数:65
宿泊料金:31185円(ツイン1室2名利用)~
詳しくはコチラ(ホームページまで)
~空っぽになって、身も心も自然とアートにゆだねよう!
宇野港から乗船したフェリーが出航した瞬間でしょうか? 心の中の時間を司るスイッチが入れ替わったような。旅の成せる業か? それとも瀬戸内海のリズムなのか? いずれにしても、心地よいゆったりとした気分になっていきます。
そんな気持ちで何も考えず、自然とアートに身も心もゆだねてしまうのが、直島を満喫する唯一の条件だと思います。最低限、島内のマップを持って、あとは徒歩か自転車で島巡り。行く先々で作品に出会ったら足を休めてしばし眺めます。この繰り返し。周りは海。船以外に島を出る方法はなし……半ば隔離された状況から生まれる開放感は都会の日常生活では味わえない代物です。
なぜ、こんな島が現代アートの別天地となったのか? 事前にホームページなどで調べた限り、実に違和感がありました。ところが実際に目にすると自然と現代アートが見事に融合している不思議に感動してしまいます。
これまた都市型の美術館で鑑賞する現代アートでは、まずこの不思議はありません。自然と現代アートの融合に対する違和感にも疑問にも納得できる理由は発見できませんでしたが、その風景を肯定し、受け入れてしまう気持ちになっていました。
「現代アートはわからない」と“食わず嫌い”の方こそ、直島へ行くとこの気持ちがより分かってもらえると思います。古典好きのアートファンの方、ぜひともオススメします!
TEXT by Sakae Ishikawa
※直島のリポートはまだまだ続きます! 次回は「地中美術館」と「NAOSHIMA STANDARD2」について報告します!