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 前略 永らくのご無沙汰でした。「モダン日本の里帰り 大正シック」by東京都庭園美術館
お帰りなさい、大正浪漫。
「モダン日本の里帰り 大正シック」
が、東京都庭園美術館で2007年4月14日(土)~7月1日(日) まで開催中

 中村 大三郎 《婦女》 1930年 屏風、二曲一隻 絹本着色 ホノルル美術館蔵


ニッポンの“美” 再発見

 2002年、ホノルル美術館を皮切りに、シカゴ(2004年)、サン・アントニオ(2005年)、バークリー(2006年)と巡回してきた本展は、「大正」とその時代に花開いた日本の“美”を再認識させ、各地で大好評を博した。それはアメリカ人だけでなく、日本人にとっても同じ。今回の開催で、我々は「大正」という時代の“美”を改めて知るだろう。
 明治と昭和にはさまれた15年と極端に短い間に、一体何が起こっていたのか? 大正デモクラシー(民主主義)の気運とともに訪れた、個人の主観性やロマンチシズムの尊重。新しい気風は、西洋のモダニズムやアール・デコを積極的に取り入れるだけでなく、日本古来の美意識と融合し、独特の文化や芸術表現が一気に開花した時代でもある。

 本展覧会は、大正から昭和戦前期にかけての日本画や着物、工芸品など約80点を展示。この時代を、体系的に紹介した展覧会はこれまでにほとんどなく、日本美術の歴史から着目しても非常に貴重な機会である。

※「シック」とは、「粋」を意味するフランス語。日本的な「粋」とは異なり、先進的な装いを指し、当時は「シーク」と発音されていたそうだ。

版画と絵画 

 中村 大三郎《婦女》 1930年 屏風、二曲一隻 絹本着色 ホノルル美術館蔵
モデルは当時大人気だった映画女優・入江たか子。京都の美人画の第一人者であった中村大三郎は、入江と人気を二分していた美人女優・山田五十鈴もモデルに起用している。映画は20世紀に誕生した新しい表現方法で、日本映画はまさに大正時代に産声を上げた。映画女優が美人の代名詞になっていた大正の風潮を物語る貴重な一枚である。

 仁丹の宣伝用団扇(うちわ/入江たか子と濱口富士子の写真入り) 1930年代初頭 ホノルル美術館蔵
上記・屏風絵と同時期に配布された団扇。ショートヘア、クッキリした目鼻立ち、健康的な肉体など、日本の伝統的な美人女優として当時人気のあった栗島すみ子とは異なる魅力で、新しい時代の美人の理想とされた入江は、若い消費者に製品をアピールするのにピッタリの存在だったのだろう。イメージ・ガールの先駆けとして、広告という目線で見ても興味深い作品である。

 山村 耕花 《踊り 上海ニューカルトン所見》 1924年  木版画 ホノルル美術館蔵
東京が関東大震災から立ち直っていない時代、上海はファッションや音楽、文化など、西洋の新しいカルチャーを東洋に伝える、アジアの中心的都市だった。ボブカットの髪型、最新ファッションの洋装、カクテルとダンス。時代の空気を如実に伝え、若者たちの憧れを大いに煽った1枚である。

 寺崎 広業 《水着姿の美女》 1915年頃 木版画 ホノルル美術館蔵
浮世絵として多く描かれ、親しまれていた海浜美人の風俗画を、近代的にアレンジした作品。当時、大流行した「海水浴」というレジャーを取り上げ、浮世絵では遊女であった登場人物が、最新の水着に身を包んだ女性に代わっているところが面白い。一見、浮世絵のスタイルを踏襲しているが、その趣は、大きく変化していることが伺える。

 榎本 千花俊 《銀嶺》 1939年頃 掛幅 絹本着色 ホノルル美術館蔵
上記が夏のバカンスを描いた作品なら、本作は冬のレジャー、スキーを描いた作品。スポーツが広く一般に普及した大正時代、ゴルフやテニス、ハイキングや水泳は、都会に住む若者にとっては旅行を伴うレジャーとして大流行した。しとやかさではなく、健康的ではつらつとしている点など、女性の描き方の大きな変化に、時代の潮流が見て取れる。

 山川 秀峰 《三人の姉妹》 1936年 屏風、四曲一隻 絹本着色 ホノルル美術館蔵
実業家・久原家の三姉妹を描いた本作には、一族の繁栄を示すキーワードが隠されていて興味深い。強力なパワーを誇る車(米・パッカード社)は、オーナーの財力を強調している。ボンネットに手を置く女性の左手には、当時は高嶺の花だったカメラ。また三姉妹は、同じ柄の色違いの着物・帯を身につけ、庶民には真似のできない豊かさを誇示している。

 和田 青華 《T夫人》 1932年 屏風、二曲一隻 絹本着色 ホノルル美術館蔵
本作には、肖像画のためにポーズをとる婦人の写真が、資料として添えて展示されているので、作品と写真を比較して鑑賞してほしい。髪型は当時流行した“耳隠し”のスタイル、白狐のストール、ゆり椅子はそのままだが、カーテンやカーペット、家具などが描き加えられている。当世風にアレンジされ、強い西洋志向が表現されている。

 小早川 清 《ほろ酔い》(「近代時世粧ノ内一」) 1930年 木版画 ホノルル美術館蔵
ショートヘアは額の髪がカールした最新スタイル、真っ赤なルージュ、パールのネックレス、腕時計、大きな宝石のリング、煙草……。当時大流行したモガ(モダンガール)を描いた典型的な作品で、本展覧会を象徴するような1枚。特に、怠惰で気だるい目の表情は、本展の多くの作品に共通し、この“目”が大正という時代を物語っているようだ。

きもの

 袷(あわせ) 制作年不詳 絹、平織 ホノルル美術館蔵
着物は、本展のもうひとつの見どころである。破天荒ともいえる斬新なデザインは、遊び心に富み、都会を中心に日本を席巻した洋装へ、挑戦するような勢いすら感じる。本作以外に、大きなハートをあしらった羽織や、トランプ4種の模様の着物が描かれた版画など、西洋を意識した当時の着物の流行は、今見ても新鮮である。


Art inn カエル
~極私的!映画ファンの展覧会感想
 一昨年、日本映画界を代表する名匠・成瀬巳喜男監督の生誕100年を記念し、さまざまなイベントが催されましたが、その時に同監督作品を70本あまり鑑賞する機会を得ました。
 成瀬作品のヒロインといえば高峰秀子がまず思い浮かびますが、初期の作品でヒロインを演じた一人が、入江たか子でした。『女人哀愁』、『禍福・前後篇』(1937年)などの作品で、動き、語るたか子嬢に、絵画に描かれた彼女を重ねると、大正という時代と、これらの映画が製作された戦前までの昭和という時代が“地続き”だったことが分かります。
 本展覧会で「大正時代」への思い入れが強くなったのなら、ぜひ日本の古い映画を観ていただきたい。もちろん古い日本映画ファンなら、本展覧会を無視できないでしょう。
 最後に、出品された主要な作品をコレクションしたアメリカ人女性、パトリシア・サーモンさんの、大正という“時代”を嗅ぎ分けて作品を集めたセンスの良さと、21世紀の日本に「大正時代」が帰る機会を作っていただいたことに敬意を表します。「古きよき時代よ、おかえりなさい」。


TEXT by Sakae Ishikawa


 庭園美術館の玄関口。
 “大正時代”という甘美なイメージが、告知パネルからも漂い、展覧会への期待感が高まる。


 《婦女》は下絵と並べて展示され、下絵で女性の手は長いスカーフを持ち、完成品で削られたことが分かる。
 スカーフの削除により、手の形が、不思議な優雅さを際立たせているのが実に興味深い。


 奥は《婦女》の図柄をプリントした着物。
 手前右には《婦女》を立体化した博多人形がある。いずれも《婦女》が美人画のスタンダードになっていたことを物語る品々である。また博多人形は暖炉の上に置かれ、正面に立つと実に優雅で可愛らしく見える、見事な展示である。


 ミュージアムショップ。
 図録(2,100円)、ポストカード(100円)の他、女性物の扇子(2,310円)が目を惹いた。閉じると、細身でエレガントなラインが際立つお洒落な品である。 

「モダン日本の里帰り 大正シック」
開催期間
2007年4月14日(土)~年7月1日(日)
開館時間
午前10時分より午後6時(入館受付は5時30分まで)
休館日
第2、第4水曜日(4/25、5/9、5/23、6/13、6/27)
観覧料
一般1000(800)円
大学生[専修・各種専門学校含む]800(640)円
小・中・高校生および65歳以上500(400)円
*( )内は20名様以上の団体料金
*未就学児、障害のある方とその介護者1名、教育活動として教師の引率する都内の小・中・高校生および教師は無料です(事前の申請が必要)。
*第3水曜日(4/18,5/16,6/20)は65歳以上の方は無料です。

電話
TEL 03(3443)0201
※テレホンサービス 03(3443)8500
開催場所
東京都庭園美術館
東京都白金台5-21-9
交通案内
JR山手線、東急目黒線 目黒駅  (東口)より徒歩7分
都営地下鉄三田線・東京メトロ南北線 白金台駅(1番出口)より徒歩6分
バス停留所「白金台5丁目」より徒歩3分
  黒77系統(目黒駅-千駄ヶ谷駅)都営バス         
  橋86系統(目黒駅-新橋駅北口)都営バス         
  品93系統(目黒駅-大井競馬場)都営バス  
  東98系統(東京駅南口-等々力操車所)都営・東急バス


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