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 内覧会レポート!国立西洋美術館「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」

 2008年9月27日、国立西洋美術館で開催された、内覧会の模様です。

 デンマークを代表する画家、ヴィルヘルム・ハンマースホイ。その作風は静謐な日常の中に、どこか不穏な気配を感じさせます。これまで、日本ではあまり知られていなかった、北欧の巨匠の不可思議な世界に、この秋、どっぷりはまってみるのも良いでしょう。

会期:2008年9月30日(火)~12月7日(日)


 
左: 展示会場に入る前の壁面に、一組の夫婦を写したセピア色の垂れ幕(2枚組)が。左がハンマースホイ、そして右が妻のイーダ。その佇まいはイコンのよう。
ハンマースホイはなかなかの二枚目。そして、貞淑な妻然としたイーダ。イーダは後年、精神を病んでいきます。

◆第Ⅰ章 ある芸術家の誕生
右: 会場入ってすぐ。右手に見える黒っぽいドレスを着た少女の絵は、ハンマースホイ自身の妹アナ(当時19歳)を描いた作品。
この作品を、ハンマースホイはコペンハーゲン王立美術アカデミー春季展に応募するも、選にもれます。その理由は、いわゆるアカデミックな描き方では無いから。具体的に言うと、輪郭は曖昧で、背景と人物の距離感がつかみにくい。しかし一方では、選にはもれても、これは新たな絵画表現である、と評価されます。
また、その絵のスタイルは生涯変わることは無かったのだとか。

 
左: 生涯、ハンマースホイは、誰もいない室内、後姿の人物を執拗なほどに、繰り返し描いています。左手の室内画は、ハンマースホイが初めて描いた誰もいない部屋の作品。
ハンマースホイは生涯にわずが2度受けたインタヴューの中で、「誰もいない室内に美を感じる。」と答えたそうです。(写真左は《白い扉》1888年、右は《後姿の女性像》1888年。)
右: 右手は、婚約者であるイーダを写真を元に描いた作品。うつろな眼差しです。両手が病的に青ざめています。(《イーダ・イルステズの肖像、のちの画家の妻》1890年)

 
◆第Ⅱ章 建築と風景
左: 室内画が有名なハンマースホイですが、建築物も多く描いています。そのほとんどは、自宅の近くの建物を様々な角度から。実際には人の往来が多い場所でも、人物はことごとく絵の中からは排除され、物悲しいグレイッシュな風景の中に、建物が静かに佇むのみです。(写真は、クレスチャンスボー宮殿を描いた作品。)
右: 意外にも、ハンマースホイは旅行好きで、海外にも度々訪れていますが、旅先で絵筆を取ることはあまりなかったようです。(写真右は、《ルーブル美術館の古代ギリシャのレリーフ》1891-92年。ハンマースホイが、新婚旅行で訪れたパリに6ヶ月滞在した際に制作。)

 
◆第Ⅲ章 肖像
左: ハンマースホイの人間関係を語る上で、外せない人物の肖像画。ハンマースホイは、「肖像画を描くにはモデルのことをよく知る必要がある」と、インタヴューで答えています。
右手は歯科医であり、ハンマースホイのコレクターであり、マネージャー兼プロモーターとして辣腕を振るった人物です。左手はブラムスンの息子の肖像画。
(写真右手は、《アルフレズ・ブラムスンの肖像》1893年。左手は、《チェロ奏者》1893年。)
右: ハンマースホイは身近な人物をよくモデルとして描きます。
(右手は《イーダ・ハンマースホイの肖像》1907年。この絵が描かれた当時のイーダは38歳。しかし、かなり年上に見えます。左手は、彼の弟を描いた作品。)

 
◆第Ⅳ章 人のいる室内
左: 静けさの中にもどこか不気味な作品たち。右手の室内にはハンマースホイならではのトリック?が、そこかしこに仕掛けられています。机の脚の数、床に落ちた影の方向などなど。
左手の作品、机の上のパンチボールの蓋がきちんと閉じられていなく、わずかな隙間から何かが漏れ出てきそうな一抹の恐ろしさが有ります。
(写真右手は、《室内、ストランゲーゼ30番地》1901年。左手は、《背を向けた若い女性のいる室内》1904年。)
右: 復刻された、現在のパンチボール(手前)と当時のものを写した写真(奥の写真)。どこかが割れたら金属などでつなぎ、それによって形が歪み、蓋がきちんと閉まらなくなることも。では、あの絵の中の状態は一体?

ハンマースホイが長く住んだ、ストランゲーゼ30番地の家の中をバーチャルに見られるコーナー。
公式サイト内でも、ご覧いただけます。http://www.shizukanaheya.com/top.html

◆第Ⅴ章 同時代のデンマーク美術 ― ピーダ・イルステズとカール・ホルスーウ ―
ピーダ・イルステズは、ハンマースホイの妻イーダの兄で、美大時代の友人でもありました。
彼らはお互いに影響し合いながらも、まったく異なる画風です。その違いは、実物を観てのお楽しみ。


◆第Ⅵ章 誰もいない室内
ハンマースホイは、17世紀オランダ絵画に強く影響を受けています。それは、構図によく現れています。フェルメールやエリンガといった画家の描いた室内画とよく似た構図の作品が多く見られます。ピアノの前に座るイーダや、ドアの向こうにドア、またドアと、いくつも部屋が連続したりします。
また、同じ自宅の室内を何度もアレンジをしながら繰り返し描いています。同じ扉でも、ドアノブや蝶番の有る無し(中には、はめ殺しの扉も!)、壁装飾の僅かな違いなど、静かに変化しています。
そして、写真左手の白いドアの後ろに何かが潜んでいそうで怖い…。
(写真左手は、《白い扉、あるいは開いた扉》1905年。右手は、《中庭の眺め、ストランゲーゼ30番地》1899年。)

 ハンマースホイという画家、今回初めて知りましたが、その画業を振り返る本展、実に楽しめました。生涯一貫して変わらないそのスタイルに、画家の確固とした信念のようなものを感じます。”陽”よりむしろ”陰”の世界観、きっとどなたも内に秘めているものだと思います。その部分を、執拗なほどにひたすら描き続けた彼の姿勢に憧れというか親しみのようなものを感じずにはいられません。

おまけ。
音声ガイド、BGMはエリック・サティで、ハンマースホイの不穏な世界観にぴったりです。作品の前で、現在のモデルとなった場所の画像も見ることができます。


[ text by Art inn編集部] 


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