2008年10月17日、東京都写真美術館で開催された、内覧会の模様です。
今、もっとも勢いのある女性作家6人による、「身体」にまつわる作品を集めた本展。若手から中堅作家の支援の一環として、東京都写真美術館がお送りするシリーズ「日本の新進作家展 vol.7」からのレポートです。
◎会期:2008年10月18日(土)→12月7日(日)
作家さんが女性オンリーという本展。私も同性として、「身体」というテーマを通し、何をどう感じ取ることができるか。その部分を検証しつつの鑑賞でした。
◆高橋ジュンコさん

左: 《Untittled》2000/2008
大企業に勤める若い女性を四角い透明のキューブ越しに撮影しています。被写体の女性たちは、みな一様に若く美しく、素直そうではありますが、これらの写真からは、あまり「個」を感じ取ることができません。透明のキューブ越しに、屈折し、分断されて見えてくるその表情は、今、彼女たちが置かれている状況、また将来への不安と期待が入り混じっているかのようです。
右: 《Tokyo Mid 》のシリーズ3本から。2006-2008
3つのスクリーンにそれぞれ映し出される、東京の街の景色と、どこにでもいそうな普通の女性の姿。それらの像は時折、重なり合ったり、遠くぼやけたり。写真の映像は、東京都心、オフィス街のど真ん中に一人佇む若い女性。周りの景色はめまぐるしく変化しているのに、彼女だけはずっと止まったまま。
また女性が突然、前のめりにぐらりと倒れ込むシーンが。観ているこちらが動揺してしまいます。それはあたかも、微力ながら、都会で必死に自立しようとしている自分自身にも重なるように思え…。
◆澤田知子さん

左: 《TIARA》2007
いわゆるミスコンの舞台。壇上にズラリと並ぶ女性たちは、様々な髪型、衣装を身にまとった澤田さんご自身。世の中の画一化された美の基準に、こちらが合わせる形で美を競うということを、いささか冷ややかにも感じられる目線で捉えた作品です。
右: 《MASQUERADE》2006
キャバクラ店の前に張り出してある、キャバ嬢の見本写真を澤田さん流に捉えなおした作品。『TIARA』と同様、こちらも画一化された美の基準に合わせ、自らを装う女性たちの姿ではありますが、一方、世の男性方の気を引く”技”を持つ、彼女たちのしたたかさも垣間見れます。
◆志賀理江子さん

シリーズ《リリー》より 2005/シリーズ《カナリア》より 2007
《リリー》は、志賀さんがイギリス留学中、初めての異国での一人暮らしの中で感じた他者への恐怖。壁一枚のすぐ隣には、他人が住んでいる、という事実。そこから、彼女が当時住んでいたアパートの住人全員を撮影する試みが始まります。SFやホラー映画に出てくる様な、閃光などの加工を加えた志賀さんの写真は、いい意味で日本人離れしており、空恐ろしさのある世界にぐいぐい引き込まれます。
《カナリア》は、《リリー》よりも幾分、SF色が薄らいではいるものの、ホラー感は存分に有ります。日常に潜む恐怖、見てはいけない心の中の恐怖を、うっかり見てしまったような気持ちになります。
志賀さんの写真には、背景にストーリーがあるものが多く見受けられます。捕鯨シーン(実際には、鯨の姿の撮影が叶わなかったため、鯨と同量の水で代用)を撮影した作品は、鯨のお腹からは、死体を始め、実に様々なものが出て来るというエピソードに着想を得たもの。因みに、タイトルにもなっている”カナリア”は、人間の7倍の速度で空気を吸うため、毒気を察知するのに使われたのだとか。
◆横溝静さん

左: 《all(Cc)》2008
現在、ロンドン在住の横溝さんの新作です。身体を使う商売をされている女性たちを撮っています。ほの暗い光の中に浮かび上がる女性たちの肉体は、実に肉々しく、異様な迫力があります。横溝さんは、この作品、構想から約1年して決行したのだそう。規定の料金を払い、撮影交渉を経ての勇気ある?作品です。
※インフォメーション:こちらの作品、新宿の「WAKO WORKS OF ART」にて、「I CAN FEEL IT(BUT I CAN'T SEE IT」という展覧会を開催中。会期は、2008/10/18-11/29。
右: 《Forever(and again)》2003
大きな2枚のスクリーンの一方には、70歳を超える女性ピアニスト4名が順々に、同じショパンのワルツを弾く姿が、また一方には彼女たちの自宅と思われる景色を固定カメラで撮影した映像が映し出されています。年齢を重ね、老いていくということに横溝さんは関心があるようです。また、今回モデルとなった彼女たちは、長年、芸術という分野に多くの時間を使ってきた人たちであり、それはどういうことなのだろうと興味を持ったのだそう。
私個人的には、親しみある家、景色の中で、祖母が日常的なことに専心している様をじっと観ている孫のような目線で鑑賞していました。
◆塩崎由美子さん

左: 《Una 2008》、シリーズ
現在、日本とスウェーデンを拠点に活動されている塩崎さん。本展では、ロンドン在住の老女優ウナさんの生活を私的に、そしてドキュメンタリータッチに捉えた写真を展開しています。
ウナさんを撮り始めたのは2001年、現在もなお継続中の作品です。脳梗塞で倒れてから回復していく過程でのウナさんの姿に、彼女の周りの空気が浄化されていくように見えた、と語る塩崎さん。老いと社会のあり方、女性として、毅然として老いて行くこと、はたまた、死んだ先には何がある?そんなことを考えさせられる作品です。
右: 左 《ディーバ_ロンドン》2008/右 《ディーバ_ユールスダーラ》2008
写真とホログラムを使った独自のスタイルの作品。ゆらゆらとたゆたう水面のような写真の中から、紅いバラが妖しく浮かび上がります。
作品タイトルにある、ロンドンやユールスダーラとは、イギリスとスウェーデン、どちらも塩崎さんにとって縁ある地名から名付けられたもの。それぞれの写真は、タイトルとなった土地で撮影されたもので、その土地の地場に力を感じたのだそう。浮かび上がる薔薇は、地場の力の象徴なのです。
◆朝海陽子さん

《sight》2006-2008のシリーズから。家で好きな映画を見ている人々の様子を撮っています。”見ている”人たちを見るという、入れ子状態のこの作品、面白いです。ベルリン、ロンドン、ウィーン、東京など、各都市の人々の構えない不意の表情を垣間見られます。自宅などに集まって映画を見るという行為は、海外留学中、朝海さんにとって、身近なことだったのだそう。
何組もモデルさんがいて、各々好きな映画を選んで見てもらうのですが、一本たりとも被った映画のチョイスは無かったのだとか。また、撮った写真を各自に送った際、あまり良い反応は得られなかったそうです。(そりゃあね。)「このようなプロジェクトに参加できてうれしいわ。」止まりだったとか!?
女性作家の目線は、己の人生の行き着くところ、女性としての先輩たち、また、等身大であったり、身近な存在や場所を見つめ直したような作品が多かったな、という印象です。自分の中で関心のあること、興味を持てることでなければ、表現はできないでしょうから。では今私には、私が感じることをどのように発信していけるのか、ということを考え直すきっかけを貰った気がした展覧会でした。

おまけ。
内覧会を終えて、同じ恵比寿ガーデンプレイス内の恵比寿ガーデンシネマへ。話題の映画『トウキョウソナタ』を鑑賞。ストーリーは、ごく普通の家庭がばらばらになって、再生していくまでの過程を追うもの。平凡に生きているつもりでも、みんな何かしら抱えているものですね。ラスト、少年の弾く、美しいピアノの調べに、家族の明るい未来が予感できて、救われる気がしました。
ロビーに撮影で使用されたらしき、家族4人分の衣装が展示されていたので、こちらもパチリ☆”
[ text by Art inn編集部]
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
●Art inn注目の展覧会情報:東京都写真美術館「日本の新進作家展Vol.7 オン・ユア・ボディ」はコチラ
●Art inn美術館一覧:東京都写真美術館はコチラ

