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 内覧会レポート!国立新美術館 「エミリー・ウングワレー」展

国立新美術館 「エミリー・ウングワレー」展2008年5月27日、国立新美術館で開催された、内覧会。

1910年、オーストラリアの砂漠地帯で生まれ、80歳の手前でキャンバスに描くようになったエミリー。86歳で亡くなるまでのわずか8年という短い期間に、膨大な数の作品を生み出した大いなるエネルギーがここに!

会期:2008年5月28日(水)~7月28日(月)



本展監修者のマーゴ・ニールさん 『アルハルクラ』 作品『ビッグ・ヤム』
左: 本展監修者のマーゴ・ニールさん。アボリジニの血を引くオーストラリア人研究者です。
中: 会場入ってすぐの部屋。『アルハルクラ』という、エミリーの故郷を描いた22枚のキャンバスからなる作品。エミリーはその画業において、一貫して「故郷」を描き続けました。溢れんばかりの色彩の点で描かれた画面は、砂漠の大地に、雨後一瞬に花開く生命をとらえているのだそうです。
右: 右側の縦長の作品『ビッグ・ヤム』。ヤムイモのくるくるとうねる巻きひげ状のツルを表しています。
エミリーの正式な名前、「エミリー・カーメ・ウングワレー」の名前の一部、「カーメ」とは、”ヤムイモの種”という意味。ヤムイモはエミリーのドリーミング(アボリジニの世界観に関して用いられる言葉で、祖先や宗教的なもの、霊的な何かで強い結びつきを持つものに対して、こう呼ぶのだそうです。)のひとつ。

バティック(ろうけつ染め)の作品 緑色の作品は砂漠に降った雨の後、芽吹いた生命を描いたもの 緑色の作品は砂漠に降った雨の後、芽吹いた生命を描いたもの
左: バティック(ろうけつ染め)の作品。布にろうで柄を描き、染色液に浸し、最後にろうを落とすと、そこだけ染まらずに残るという染色技法。
技法は変われど、描く対象はやはり「故郷」。エミリーのドリーミングである、エミューや羽、オオトカゲなどが描かれています。
中、右: 緑色の作品は砂漠に降った雨の後、芽吹いた生命を描いたもの、褐色の作品は、乾いた大地を描いたもの。無数に打たれた点のさらに下に、線が交差し走っているのが分かります。それらは、ヤムイモが地中に張った根によって生じた地表のひび割れで、女性たちがヤムイモを掘り当てる際の目印になります。

4点組みの大作、『大地の創造』。各275.0×160.0cm 身体に描かれた線、Body Linesのコーナー
左: 4点組みの大作、『大地の創造』。各275.0×160.0cm。エミリーが”緑の季節”と呼ぶ雨季の後に訪れる大地の豊穣の様子です。壮大なスケールで描かれるこの作品は、アボリジニ作家のみならず、オーストラリアの女性作家として、初めてオークションで百万オーストラリアドルを超える落札額を記録しました。 
無数の高彩度の点からなるこの作品は、「これが砂漠?」と思ってしまうほど、豊かな世界です。
”すべてのもの”を描くとエミリーは謳っていました。
右: 身体に描かれた線、Body Linesのコーナーです。キャンバスに描くようになる前、エミリーは、儀式に際して女性の身体に線を描く、ボディ・ペインティングを行っていました。身体に「しるしを印す」という伝統的な行為です。
黒い肌に映えるように線を描いていたので、キャンバスも黒地から白い線を描き起こすことを好んでいたようです。
力強く、ミニマルに描かれた線の作品たちは、まるでNYのギャラリーにでもあるかのような、モダンな様相を呈しています。

ユートピア・ルーム ユートピア・ルーム
「故郷」エミリーのカントリーにある、アーチ状の祖先の岩を称えたもの ボディ・ペインティングを施されている中央の女性がエミリー
4枚すべて: ユートピア・ルーム。会場の一角に設置された、エミリーの作品の背景をより深く知るためのコーナー。
エミリーは、オーストラリア、アリススプリングスの北東約230mにある「ユートピア」という地域で、生涯を送りました。人型や動物型、植物や動物の毛、毛髪などで作られた儀式の道具などが展示されています。
下左: エミリーの鼻孔には大きく貫通した穴がありますが、これは「故郷」エミリーのカントリーにある、アーチ状の祖先の岩を称えたものなのです。
下右: ボディ・ペインティングを施されている中央の女性がエミリー。

歌手のエルトン・ジョンの所有する、エミリー作品『私の故郷』。
歌手のエルトン・ジョンの所有する、エミリー作品『私の故郷』。多くの著名人がエミリーの作品を所有しています。

Yam、ヤムイモのシリーズ 
Yam、ヤムイモのシリーズ。画面いっぱいに展開された有機的な線は、地中に張り巡らされたヤムイモの根や、地表のひび割れなどを表しています。砂漠に育つ、ヤムイモの生命力の強さが伺えます。
エミリーは地面に直接キャンバスを置いて、あぐらをかきながら制作していました。
そのため、作品には正確な天地左右は無く、また、屋外での制作の為、犬の毛や足跡、鳥の羽、草、砂など、周りのものが張り付いていたりします。

1996年、エミリーが亡くなる前、たった数週間で描かれたシリーズ
1996年、エミリーが亡くなる前、たった数週間で描かれたシリーズ。
この短期間で、24枚もの作品を生み出したエミリーは、またも新たな描き方をします。
ペンキ塗りをしていた男性から譲ってもらった幅10cmくらいの大きな刷毛で色を載せていきます。
エミリーはいろいろな方法、道具を試すのが好きでした。
左の方の白い絵は、ニルヴァーナ(涅槃)を表しています。エミリーは自分の死期を知っていたのでしょう。


6分間の映像コーナー 6分間の映像コーナー
6分間の映像コーナー。エミリーの肉声や描く様子が見られます。

「エミリー・ウングワレー」展 図録2500円 オーストラリアグッズが満載 ヤムイモの絵のキャンバストート
会場を出て。
左: 図録2500円、中: オーストラリアグッズが満載。ブーメランも!右: ヤムイモの絵のキャンバストート。オシャレです。


◎おまけエミリー絵画の表面
近寄ってよ~く観てみてください、幾重にも重なる点や線が画面いっぱいに描かれていますよ!
ヤムイモの種などから着想した点ですが、増殖し続ける細胞の様にも見えます。
草間 彌生さんの作品に近いものも感じます…。
おまけ おまけ おまけ おまけ おまけ

エミリーがキャンバスにアクリル絵の具で描くようになったきっかけは、当時の政府が先住民に対し、絵を描くこと、染色などの文化を教えようとしたから。
そもそも、先住民たちは、入植者たちによって故郷を追われ、エミリーも入植者の農園で働いていたこともありました。やっとの思いで帰ることの出来た故郷で、皮肉にも彼らに与えられた方法により、描き出したことで、広く世間に知られるようになったのです。それまでは身体や砂に直接描いていたため、形に残らなかったからです。
また、特筆すべきは、エミリーの作家性はキャンバスに描くようになるずっと前から確立しており、絵を描く際の迷いは一切ありませんでした。テーマは一貫して「故郷」。マイ・カントリー。
絵を描く根源的なものに出会える展覧会でした。

[ text by Art inn編集部]
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