2008年11月7日、開催された、内覧会の模様です。
アメリカの原風景を、精緻に描き続けるワイエス。(会場入り口のポートレートが相当かっこいい!) 3部構成からなる本展は、素描や習作をあわせ、150作品を展示。
◎会期:2008年11月8日(土)~12月23日(火・祝)
ワイエスは、メイン州で、夏の5か月間を、生まれ故郷でもあるペンシルヴェニア州で、残りの7か月間を過ごします。この2つの州のみが、彼の芸術活動の場です。
第1章:自画像
著名な挿絵画家であった父を超えようと、必死だった若いころの姿。
ワイエスは、あまり自画像は描きません。
そして、次のように語っています。
「できることなら私は自分の存在を消してしまって絵を描きたい。―あるのは私の手だけ、という具合に。」
第2章:メイン州

オルソン家の使っていない部屋に入ると、人影が!と思いきや、それは古い鏡に映ったワイエス自身。一瞬の驚きを捉えます。
メイン州では、妻となるベッツィと、また彼女の紹介によって、30年も描き続けることになる、オルソン家との出会いが有ります。
オルソン家には、手足の不自由な姉クリスティーナと、弟のアルバロが住んでおり、使っていない部屋をアトリエとして使わせてもらっていました。
ワイエスといえば、MOMA所蔵の《クリスティーナの世界》。作品保護のため、本展には出品されていませんが、写真と習作を展示。(意外にも、モデルのクリスティーナは当時50代だったのだそう。)

左: 続き扉のある部屋。この構図、現在、国立西洋美術館で開催中のハンマースホイの作品にも、どこか似ています。実際、ワイエスは、ハンマースホイの作品が好きなのだとか。
右: 《ガニング・ロックス》、野性的な男の横顔を描いた作品。彼は、ワイエスの若いころからの友人で、アメリカン・インディアンとフィンランド系の血筋の持ち主。
ガニング・ロックスとは、沖合の近づきにくい島の名で、恰好の狩りの穴場。
習作では、風景の中に佇む彼、という位置づけが、次第に、彼そのものにスポットを当てて行きます。筆跡さえ見えない、ドライブラッシュの驚くべきテクニック!必見!
第3章:ペンシルヴェニア州

左: 荒涼たる冬の大地。習作と見比べると、様々なモノが淘汰され、シンプルになっていくのが分かります。この風景は、ワイエス自身。彼は、自分の世界をつくるために、とことん歩き回りました。
右: 草原の中、横にピンと張られたワイヤーに、大水によって流されてきた、草が引っ掛かってそよいでいる絵。ワイエスは、心に引っ掛かった事象を、”clicks”と呼びます。ここでは、ワイヤーに引っ掛かった草に、”clicks”したようです。
本展では、先端部が鉤状の義手が象徴的に登場します。
ワイエス17歳の時、黒人の幼なじみで、義手のビルの姿を描いた際、絵の師でもある父親に、義手部分を消されてしまった出来事は、二人の、決定的な芸術感の違いを露わにしました。
のちに、メイン州の製材所で義手の青年と出会う機会があり、義手をある重要な記憶として描いているのです。
確かな技術力、そして、目の前のものを、ただ描写するだけでは、決して表現できないものを、ぜひあなたの眼で感じ、確かめて頂ければ、と思います。
また、心で感じる”clicks”にも素直でありたいなと。
p.s.御年91歳のワイエスと孫娘との、最近撮ったインタヴュー映像も有り。嗚呼、なんて素敵な。
[ text by Art inn編集部]
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