
本展はウィーン・ミュージアム所蔵のクリムト、シーレを始めとする19、20世紀に活躍した画家の作品120点を四都市に渡って巡回する展覧会です。
オーストリア.ウィーンと言えば、絵画よりも音楽の都のイメージが強い事と思います。しかし19、20世紀の間にはクリムト、シーレの台頭、そして分離派誕生等の劇的な芸術活動があり絵画史の一ページを飾る大きな躍動がありました。そして当展覧会に出品されている120点からそれを感じ取る事が出来ます。
◆会期:
・北海道会場 2009年 7月11日~ 9月 6日 札幌芸術の森美術館
・東京会場 2009年 9月16日~10月12日 日本橋高島屋
・大阪会場 2009年10月24日~12月23日 サントリーミュージアム[天保山]
・福岡会場 2010年 1月 2日~ 2月28日 北九州市立美術館
1897年ウィーンの芸術家で構成された利益活動の組織集団、造形芸術家協会は内部に潜む非芸術グループの展覧会等における妨害行為によって本来の目的である前衛的な活動が行えていない状態になっていました。
そんな中、ウィーン芸術発展の為に組織から40名の若者の画家が離脱し分離派を発足します。
先導したのはグスタフ・クリムト。賛否両論あるかもしれませんが、オーストリアの西洋絵画史に大きな波を立てた節目であり、変動を与えた事件でした。
本展は作品の年代順に展示してありますので、まずは分離派発足以前の作品を見てみましょう。
それまでのオーストリアの絵画はフランスの印象派(*1)、バビルゾン派(*2)、写実主義(*3)の流れを汲んだ画家が活動していた事がよく分かります。ご紹介したい作品は沢山ありますが紙面の関係上割愛させて頂き、クリムトにスポットを当てたいと思います。
グスタフ・クリムト作 《愛》1895年
皆様はクリムトの作品を見る時、どんな感想をお持ちになるでしょうか?
幻想的?夢想的?歌劇的?情緒的?耽美的?etc…
そのどれもがクリムトの作品には当て嵌まると思います。
金色と絡み合った色彩は極めて幻想的
柔らかい光源の色彩は何よりも夢想的
描かれたシーンはオペラの様に歌劇的
絡み合った男女の愛情の表現は情緒的
艶やかな人の表情は甘蜜の様に耽美的
とても不思議な画家です。自身は分離派の先導者としてその活動を新聞社を通じて告知したり、造形芸術家協会の批判をしたりと社会活動を活発に行いました。時にはアカデミーの運営に対して激昂したりもしました。
しかしその作品は誰もが心の中に抱いている「恥」の部分を露にした物を多く残しています。まるで肉体と精神が異なる脳で活動している様な画家です。
グスタフ・クリムト作 《パラス・アテナ》1898年
図録の表紙にもなっているので、やはりこの作品が当展覧会の目玉でしょうか。
誰もがパラス・アテナが身に付けている甲冑の質感にハッとします。まるで指でなぞればシャラララと音が鳴りそうな精密な表現で描かれています。背景のローマの陶器に描かれていそうな黒いシーンは神話の物語でしょうか?作品と向き合っているとある瞬間にアテナと目が合います。一見すると焦点が合ってなさそうな表情ですが、アテナの残酷な一面を物語る様に冷たい視線です。
会期は北海道は既に終了し、東京も残りわずか。大阪、福岡へと続きます。
お近くに巡回した時には、是非ご覧になってみて下さい。
*1:工房の師匠が描いた様に弟子も同じ様に描くのが画家と言う当時の風潮を否定したモネ、ルノワール、シスレー、ドービーニーにより派生した集団。モネの「印象、日の出」と言う作品からその名前が付いた。
*2:美しい風景が広がるバビルゾン村で風景画を描く事に徹した画家の事。コローが有名。八王子の村内美術館に豊富なコレクションがある。
*3:現実主義とも言う。見えた物を見た様に描く画家の事。「私以外は画家ではない」と言ったクールベが有名。

日本橋高島屋 外観
【鑑賞のお手伝い】
先日、友人から美術について「~派」「~主義」と言う言葉が難しくて分かりにくいと指摘を受けました。
しかし言葉が聞き慣れないだけでそれ程難しい事ではありません。
コーヒー党、紅茶党、猫派、犬派と基本的な考えは同じです。
絵画における「~派」「~主義」と呼ばれる流れや派閥には既存のファクターに反発を示した事より生じる組織や集団の事を言う場合が多いです。一つの物差しで好き嫌いのスケーラーで基準を計る事が出来れば楽なのですが、犬派の方に猫の素晴らしさを伝える事が難しい様に、絵画でも同じ事が言えます。
「分離派」の様にその時々の時代背景や発足要因から組織の呼び名が決まりますので、分離派、印象派、野獣主義、破壊主義、超現実主義と言われてもイメージが浮かび難いかもしれませんが「今までと違う事」と言う基本方針はどの組織も変わりません。
時として相反する派閥や主義はお互いを誹謗中傷をしますが、人類の発展が戦争を繰り返して成り立ってきた様に進化には破壊と創造が伴います。
絵画の歴史も同じ事が言えます。よって鑑賞の上で「~派」「~主義」を無理に覚える必要はありません。勿論、知的好奇心に身を任せてご興味を持った派閥を勉強されるのも絵画の楽しみ方の一つですので大いに有益です。
[ text and photo by 明孫浩] 2009/9/28 UP
●Art inn注目の展覧会情報:サントリーミュージアム[天保山]「クリムト、シーレ ウィーン世紀末展」はコチラ

